A.跨がって体重で数センチしか沈まないと「硬い」、1/3ほど沈むなら「適正」で柔らかいのとは違います
愛車のサスペンションが硬いのか、柔らかいのか気になります。
サスの硬さは押しただけではわかりません。
どこで硬い柔らかいを知ることができますか?
身長や体重が平均的な日本人サイズなら、市販状態はほぼ硬過ぎます
サスペンションは、「硬い/柔らかい」で表現すると誤解されるケースが多く、今回はそこからご説明しましょう。
まずサスペンションとは、乗るライダーのキャリアや好みで、評価というか印象や扱いやすいか否かについてまで、感じ方が違うモノだと思います。
ただワインディングなどでコーナリングしている間が最も楽しく、常に最優先するライダーであればという前提で、何が「適正」かをご説明します。
この大前提で申し上げると、基本的に市販状態の、つまり工場出荷状態のスポーツバイクのサスペンションは硬過ぎます。
ほとんどのビッグバイクが、皆さんが日本国内で使用する条件より遥かにハードなシーンを前提にしているからなのです。
欧米の我々より大柄で重いライダーが、しかもタンデムで高速道路のカーブを日本の倍もの速度で駆け抜けるとき、路面からの衝撃をきっかけに、バイクが上下動を繰り返しはじめたら危険に思いますよネ。
そんなコントロールできない状態に陥ったら、これは訴訟ネタです。企業としてこれはあってはならないコトで、そのために滅多なことではフワつかないサスに設定されているのです。
コーナーを楽しく乗るには良く動くサスペンションが優位です
こういった動きにくい、硬いサスはコーナリングアプローチがしにくいだけでなく、滑ったときのリカバーにも対応しづらい側にあります。
簡単に理由を説明しますネ。サスは路面からの衝撃を吸収したりする乗り心地も大事ですが、コーナリング中にタイヤが滑らないよう、路面追従性という重要な役割も担っています。
この路面追従性、わかりやすくいうと如何にサスが速やかに伸びるか、ココがポイントです。
ご存じのように、コーンリング中のタイヤはバイクの車重とライダーの体重で路面に押しつけられてグリップしていますよネ。
しかし、路面がうねったりして下に凹んだ状態を通過するとき、サスが伸びにくいとタイヤは押し付けられていた面圧が急激に減り、バンクしている車体が横に動いてしまったり、面圧の落差が大きければ滑ったりします。
そして滑ったとき、サスがすぐ伸びればタイヤは路面から離れず、スリップが収まれば転倒しません。すぐ伸びずにタイヤが宙に浮けば、当然ながら転倒してしまいます。
軽快なハンドリングも良く動くサスペンションが効きます
また真っ直ぐ立っている車体をコーナー入り口でリーンさせるときも、旋回の軌跡が後輪を軸に前輪が無理なく追従する、最も曲がりやすい状態を、サスが良く動くことで軽やかな運動性と共に得られるのです。
鏡面のように平滑な路面は一般道路ではもちろん、サーキットでもあり得ません。タイヤの面圧が一瞬でも大きいと、その反力でバイクは動きにくくライダーに重く感じさせます。
リーンしていく間も、エンジンという慣性力の中心的存在が重心となって移動するのが理想ですが、ロボットでもないかぎりこの理想の運動を妨げずにいるのは不可能です。
しかし良く動くサスは、ライダーの曖昧な操作をタイヤなどに伝えにくくして、乗りやすいと感じさせるハンドリングを支えるポテンシャルがあります。
柔らかくするのではなく「適正」な設定を探します
それではどのくらいが「適正」なのか……バネ、即ちスプリングについては乗車したとき体重で少なくとも1/4、できれは1/3は沈んでいないと、リカバー側の動きが不足します。
専門用語ではこの乗車時の沈み量をリバウンドストロークといいます。
プリロードアジャスターという、5~7段に切り替える機構か、ネジでロックナットを回して調整する装置など車種によって様々ですが、これを緩めたり締めたりしながらストローク位置を探します。
いわゆる「サグ出し」(sag=たわみ、初期たわみを意味します)はこの調整を言います。
ではダンパー、減衰力はどうでしょう。説明してきたように伸び側が重要です。
標準で調整がついているバイクは、調整機構が減衰力を発生させる主機能部分ではなく、独立した補助回路を設けて調整しています。
この補助回路で「最弱」もしくは「ゼロ」にセットしても、主機能部分によって弱過ぎる状況は起きません。
だからまずは伸びを「最弱」にしてみましょう。
それでフワフワして乗りにくければ、少しずつ強めていきます。でも相当に激しく乗るプロライダーでも、市販車の標準設定はコーナリングには硬過ぎると感じます。ということからも、一般的には最弱は悪くないはずです。
それと、高価なリプレイスサスは、この伸びやすい特性と急激な動きに対してのみ硬くなる、多重な動きができる複雑な構造で、標準装着のサスとは次元が異なります。
ほぼ間違いなく乗りやすく、そして安全性も高まるので、興味のある方はそうした情報もぜひチェックしてみてください。
オーリンズ製のスペシャルサスペンションには、プリロードをネジのスクリューで微調整しながら回すタイプと、油圧で手で回しながら容易に調整できるタイプも用意されている
- Words:
- 根本 健