A.高速域での運動性や安定性を高め、加速時のウィリーを抑制
MotoGPマシンには全車に“ウイング”が付いています。
そして近年は市販車もウイング付きが多数登場しています。
あのウイングにはどんな効果があるのでしょうか?
ドゥカティからスタートしたウイングレットが、いまは全車に普及
MotoGPマシンのフロントカウル両側に、最近はウイングが装着されていますネ。元々はドゥカティが積極的に試していたものですが2016年から急速に普及。その後はレギュレーションでも幅や形状、変更できる回数などが決められ、最近は毎年のように形状を変えています。さらにはライダーの好みによっても仕様の異なるセットアップパーツのひとつになっていますよネ。
MotoGPで普及しはじめた2016年頃は、タイヤがブリヂストンからミシュランに変わってフロントの接地感が以前より減った感じになったので、高速域でのダウンフォースを稼ぐため……という見方もありましたが、いまはさらに進化。いろいろなシーンでその効果が認められてきています。
カウルの空力には意外なほど多くの要素が複雑に絡んでいるのです。しかし、翼として先鋭化すると、万一のとき危険性も考えられるため、その後MotoGPではウイングレットが禁止され、規則に抵触しない工夫がいまの形状の空力デバイスに進化してきました。
2016年のシーズン前に発表されたドゥカティのデスモセディチGPのウイングレット 。その後、シーズン中にも形状や枚数を変えて進化していった。しかし、転倒時や接触時にウイングレットがライダーに当たって危険という声があり、安全性の問題から2017年からウイングレットは禁止に。しかし、レギュレーションで定められた空力デバイスはいまもどんどん進化していっている
カウルを装着する目的は空気抵抗を減らすためだったけれど……
そもそもカウルを装着する目的は、いうまでもなく空気抵抗を減らすためですが、ただ最高速度を稼ぐだけなら速度記録にチャレンジするマシンのように、ライダーを覆うようなもっと大柄な形状のほうが優位でしょう。しかしサーキットを走るMotoGPでは、右に左にとコーナーへリーンする動きも重要です。カウルが大きいと、整流している状態が左右への動きの妨げになる可能性があります。
そこで前の方を小さくして、空気を切り裂く役目を優先する形状が増えてきました。MotoGPマシンでは、さらにラジエターを含む冷却のための形状も重要です。高温になるエンジンが、コンパクト化のために小さなフレームと合体しているため、カウル内側の空気の抜けを良くしています。それにエンジンへの吸気を少しでも低い温度で吸い込むためと、高速域で風圧を利用して稼ぐため、先端部分のどこかにエアインテークも備えています。
こうした要素を前提にすると、アンダーカウルを含む最初に風を切る部分の形状は、実にデリケートな形状が必要とされているのです。なぜなら空気はそれぞれの部分に都合よく分かれて当たってくれるワケではなく、圧力が高い部分があれば周辺は流速が遅くなったりと、一定の抵抗でなくなるからです。そうなると問題になるのが全体の安定性で、形状によっては車体が横ブレや上下に煽られてしまうかも知れません。
そこで登場するのがウイングです。ジェット戦闘機など、よく見ると小さなウイングがボディや翼に装着されていますよネ。あれは空力で整流が乱れがちな部分に装着することで、余計な反力などが生じるのを防ぎ、ブレを生じると妨げになる運動性を軽快にしたりする効果があるのです。さらに全体の空気抵抗を減らして、燃費も向上する効果もあります。後づけに見えますが、ウイングの整流効果の特性からボディや翼とは一体化せずに、あくまでウイングとして装着するから利用できる効果というものがあるのです。
市販車にはアプリリアのRSV4がいち早く採用。その後、ドゥカティのパニガーレV4R、パニガーレV4S(写真上)に採用。限定車であるスーパーレッジェーラV4(写真下)は形状も複雑。MotoGPで禁止されたウイングレットだが、市販車ではいまも採用。ホンダCBR1000RR-Rなどは最新のボックス形状とするなど、メーカーによって考え方は様々
ドゥカティのストリートファイターV4S。いまは、ネイキッドにもウイングレットが装着される時代。国産はスズキのGSX-S1000も採用した
欧州メーカーが主体となって、様々な空力パーツが誕生
もちろんMotoGPマシンが高速域で浮き気味になるのを抑えたり、前輪の接地感を稼ぐためダウンフォースを与える効果も簡単に稼げます。でもよく見てみましょう。単にダウンフォースを稼ぐためなら、もっと角度をつけた平らな面にすれば良いはずですが、その形状は何とも複雑な曲面が与えられていますよネ。
というワケで、ダウンフォースも稼ぎつつかも知れませんが、実はそれだけではなく、整流効果で高速域の運動性や安定性、そしてウイリーを抑止する効果もあります。実際、最高速がわずかに落ちたり、ハンドリングに重さが出てもそういった効果を優先するライダーもいます。そして最近はカウリングだけでなく、ブレーキダクトやホイールカバーなど、各メーカーいろいろなところのエアロダイナミクスを追求していますネ。今後は研究の成果でさらに色々な形状が生まれてくるでしょう。空力デバイスは、MotoGPマシンには欠かせないセットアップパーツのひとつなのです。
ちなみに少し前にマルク・マルケスがコメントしていましたが、転倒して片方がなくなると、ストレートはかなりバランスを崩してしまうようですネ。
そして市販車にもこういった空力デバイスを装着するバイクが増えてきました。今後、バイクがどんなカタチに進化していくのか、そしてそこに秘められた各メーカーの思惑とは……ますます面白さが増していきますネ。
2021年シーズンが始まる前発表されたデスモセディチGPの空力デバイス。もはや後付け感はなく、アッパーカウルの一部として機能させているのがよくわかる
フロントフォークの下側に大きな羽を装備。リヤホイールやスイングアームの下側にも空力デバイスを装備。ドゥカティは、この他にもホイール全体を覆うカバーなどコースやライダーの好みよって様々なタイプを開発している。各メーカーのこういったチャレンジに注目してMotoGPを観戦するのも面白い