A.エンジンの能力を発揮する場面が違います
パワーが大きければ、最高速度と加速性能が上がります
バイクのパフォーマンスで誰もがまず見るのは最高出力、いわゆる何馬力かですよネ。確かにそのすぐ隣に表記されている最大トルクをチェックして、凄いとかいう人はほとんどいません。
パワーとトルク、どちらもエンジンの出力を意味してますが、何に対して能力があるのかで違いがあります。専門的な解説をすると、かえってわかりにくくなるので、シチュエーションで馬力とトルクの違いを説明しましょう。
馬力が大きければどこの能力が高まるかといえば、最高速度と加速です。たとえば180ps/10,000rpmだとすると、1万回転でスロットル全開であれば180psを発生して空気抵抗や重量などの走行抵抗に対し、280km/hとかの速度域まで運ぶことができたりします。
加速も同様に、その最高出力を発生する回転域に向かって勢い良く上昇していく能力なので、基本的に最大馬力が大きければ猛ダッシュすることができます。いわゆる絶対出力で、能力の限界をわかりやすく表現しているといえるでしょう。
高回転まで回すほどパワーは出るけれど……
ただややこしいのは、内燃機関としての特性です。エンジンは燃焼室で霧化した燃料と空気の酸素が圧縮され爆発するエネルギーを、クランクで回転力に変換しています。これを何回繰り返すかで、つまり高回転になるほどパワーが稼げるワケです。
しかし坂道とか、その抵抗が大きくて最高出力を発揮できる回転域まで加速できないと、どんなにパワーがあろうと最大能力を発揮できませんよね。
ここで登場するのがトルクです。
これは爆発の間隔でエネルギーが途切れるのを防ぐため、エンジンにはクランクホイールマスなど慣性力を利用した力も使われています。このトルクが強ければ、シフトアップなどで回転がドロップした瞬間から、加速するまでの間を繋いでくれるというわけです。
また低回転域で、一度スロットルを戻してからまた開けたときも、このトルク作用が大きいエンジンは、グイグイと加速してくれます。これを粘りのあるエンジンなどと昔は言ってましたが、いまは燃焼とクランクマスの関係も違ってきていて、単に粘るとかの表現ではピンとこないでしょう。
ドゥカティ パニガーレ V4S
排気量 1,103cc
ボア×ストローク 81×53.5mm
最高出力 214ps/13,000rpm
最大トルク 124Nm(12.6kgf•m)/9,500rpm
超ショートストロークエンジンであるパニガーレV4。それでも様々な改良により大トルクを実現しているが、発生回転はパワー&トルク共に高めだ
トライアンフ ロケット 3 R ブラック
排気量 2,457cc
ボア×ストローク 110.2×85.9mm
最高出力 167ps/6,000rpm
最大トルク 221Nm(22.54kgf•m)/4,000rpm
世界最大排気量を誇る並列3 気筒エンジンだけにすべての数値が桁違い。パワー&トルク共に発生回転数が猛烈に低い
ロングストロークエンジンだとトルクフル?
以前はロングストロークはトルクがあって、ショートストロークだとトルクがないエンジンと決まっていましたが、ピストンとクランクを連結しているコネクティングロッドの長さを含めた重量マスや、クランクピンの位置とクランクウエブというオモリの位置との関係など、様々な要素でトルクを稼げることがわかり、ショートストロークでもトルクのあるエンジンが増えてきています。
トルクは、回転が上昇してもほとんど増えません。中速域を中心に、どのエンジンもフラットなトルク特性となっています。とはいえ、このトルクがないとエンジンは状況が揃わないと力強さを発揮できない、対応力の狭いものになってしまいます。
なのでツーリングを前提にしたバイクほど、最高出力よりトルク特性を重視します。改めてトルク特性の出力曲線を見てみると、低い回転域でも最大トルクの80%を発揮できるエンジンもあって、そんなバイクは間違いなく神経を遣わずに乗りやすい特性になっています。中速域が連続するワインディングでは、スーパースポーツに後塵を浴びせてしまえるポテンシャルを見せることも少なくありません。
そう、実は一般公道ではトルク性能のほうが、実際の走りに「効く」ことが多いのです。バイク選びではパワーよりも注目するべきスペックなのです。
近年は低速域と高速域でカムシャフト(バルブタイミング)を切り替える機構を様々なメーカーが模索。BMWはS1000RRや1250のフラットツインにシフトカムを導入。ドゥカティもLツインエンジンにDVT(ドゥカティ バリアブル タイミング)という機構を導入。スズキはGSX-RにSR VVT(スズキ レーシング バリアブル バルブ タイミング)を導入。どれも低速域では力強く、高回転ではよく伸びるエンジンになっている