吸気系の進化で登場した電子デバイス
ハンドルのスロットルグリップ(アクセル)を手前にひねれば、エンジンの回転が上がって加速してスピードが出る。反対に戻せば減速がはじまり回転が下がってスピードが落ちる。
当然に思っていても、なぜアクセルを開閉するとエンジン回転が上がったり下がったりするのだろうか? それはエンジンに送る混合気(空気とガソリンが混ざった燃焼用のガス)の量が変わるから。これは想像がついていると思う。
ではその混合気はどうやって作り、どのように量を調整しているのか?
これはガソリンを燃料とする内燃機関がバイクに搭載された19世紀末ごろから、おおむね100年くらい長きに渡り「キャブレター」が行っていた。詳しい構造の説明はさておき、エンジンが吸い込む空気の流速で生じる負圧によってガソリンが吸い上げられ、吸気として混ざって燃焼室へ運ばれる、あくまで物理現象のみで稼働する装置だ。そしてアクセルから伸びた金属ケーブルでキャブレター内の弁を開閉することで、混合気を吸い込む量を調整する。
ところが1980年代の中頃にバイク・エンジン用でも「フューエルインジェクション(燃料噴射装置)」が登場した。こちらは燃料ポンプでガソリンを圧送し、インジェクターと呼ばれる噴射ノズルから噴射して空気と混ぜて混合気を作る仕組みだ。
吸い込む空気の量はキャブレターと同様に、アクセルから伸びた金属ケーブルでスロットルボディの弁を開閉して調整する。アクセルの開度やエンジン回転数に合わせ、ECU(エンジン制御ユニット)で計算してガソリンを噴射する量を制御するのが「電子式フューエルインジェクション」だ。
スロットルケーブルが消えた!?
そして2000年代中頃に登場したのが「ライド・バイ・ワイヤ」。混合気を作る仕組みは従来の電子式フューエルインジェクションと基本的に変わらないが、アクセルにはライダーが操作する開度を検出するセンサーが装備され、機械的にスロットルボディと繋がっておらず、吸気量をコントロールするためのスロットルボディの弁は、電子制御で動く電気モーターで開閉している。電線(Wire=ワイヤ)を介するため、この呼び名が付いた。ちなみに多くのバイクメーカーがライド・バイ・ワイヤだが、ホンダは「スロットル・バイ・ワイヤ」と呼ぶ。名称は異なるが目的や仕組みは同じだ。
キャブレター
エンジンが吸い込む空気の圧力(負圧)と流速を利用して、物理現象でガソリンを吸い上げて空気と混ぜて混合気を作る仕組み。電気やコンピュータを使わずに単体で機能する非常に効率の良い機械だが、近年の超高性能エンジンに対応する吸気量の緻密なコントロールや、排出ガスおよび燃費などに対しては不利なため、バイク用が標準装備する吸気システムとしては2010年頃に姿を消した
フューエルインジェクション(FI)
燃料ポンプで圧力をかけたガソリンを、インジェクターと呼ぶノズルから噴射して空気と混ぜるシステム。吸気量はライダーのアクセル操作を金属ケーブルによって機械的にコントロールするが、ガソリンの噴射量はECU(エンジン制御ユニット)で電子的に制御している
ライド・バイ・ワイヤ方式のFIスロットルボディ
アクセルグリップとは機械的に繋がっておらず、吸気量を調整するバタフライバルブは電気モーター(写真では上部の筒状の部品)で開閉する
コンピュータがライダーの操作を検証しながらスロットルを操作している!?
それでは電気モーターでスロットルバルブを開閉するライド・バイ・ワイヤ(スロットル・バイ・ワイヤ)は何がメリットなのか? じつはアクセルのグリップに装備された開度センサーの信号は、スロットルを開閉するモーターを直接動かしているワケではなく、ECU(エンジンコントロールユニット)を介している。上の図はホンダCBR250RRのスロットル・バイ・ワイヤの概念図だが、ECUにはライダーが操作するスロットル開度の他にも、スピードやエンジン回転数、使用ギヤ等の基本情報が送られている。さらに近年のスポーツモデルではIMU(慣性計測装置)で検知した車体姿勢も加味され、その状態で最適なスロットルバルブの開度と開き方(スパッとかジワ~)になる信号をモーターに送っているのだ。
そして近年のバイクはライディングモード(パワーモード)やトラクションコントロールなど様々な電子デバイスを装備するが、ライド・バイ・ワイヤの登場以前は基本的にフューエルインジェクションの燃料噴射量と点火プラグでパワーの出方などをコントロールしていた。しかしライド・バイ・ワイヤ装備のバイクでは、それらの制御に加えて「スロットルの開け方そのもの」でコントロールしているので、より繊細で違和感無く、スムーズにライディングをサポートしてくれる。速さはもちろん安全面においても、ライド・バイ・ワイヤのメリットは大きいのだ。