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“押しがけ”って何? バッテリーがあがった時の必殺技!? どのバイクでもできるの?【ライドナレッジ017】

バッテリーが上がると、ベテランは「押しがけしろ」というけれど……

バッテリーが弱っていたり、ライトの点けっぱなしなどで、バッテリーが上がってしまい、スターターボタンを押してもセルモーターは“ギュッ…、ギュッ…”と力なく、エンジンがかからない……。

特に冬の朝はそんなシーンをよく目にする。一泊ツーリングの朝だったら、まあまあ大変だ……。

そんな時、先輩ライダーに「押しがけでエンジンをかければいいんだよ」と言われることがあるけれど、どうやってやるの? 本当にかかるの? というか、そもそも「押しがけ」って何?

元々はレースのスタート方法

じつは昔のロードレースは「押しがけスタート」が主流だった。スタート位置に並んだライダーはマシンの横に立ち、スタートの合図とともにマシンを押し出し、勢いが付いたところでポンッと飛び乗ってエンジンをかけ、そのまま加速する……というモノだ。

もう少し詳しくやり方を解説すると、スタート前にギヤを1速か2速に入れておき、クラッチレバーを握って待機。スタートの合図で押して走り出し、ある程度勢いが付いたところでクラッチをパッと繋ぐと、後輪の回転がトランスミッションを介してエンジンのクランクを回すことでエンジンがかかる。

クラッチを繋ぐ直前にポンッと飛び乗るのは、後輪をロックさせないためだ(レーシングマシンは軽量なのでロックしやすい)。

昔のレーシングマシンは軽量化のため、スターターモーターはもちろんキックアームも付いていなかった。そこで「押しがけスタート」だったのだが、エンジン始動に失敗したマシンやライダーに後続車が突っ込むような事故も少なくなく、世界GPでは1986年を最後に、その後はエンジンをかけた状態からの「クラッチスタート」に変更された。

市販バイクでも押しがけできるの? どのバイクでもできるの?

そもそも昔のレーシングマシンはバッテリーを搭載していなかった。電気が必要なのは点火プラグに火花を飛ばすことだけなので、押しがけでエンジンをかければ(クランクを回転させれば発電してプラグの火花が飛ぶ)、後はエンジンが駆動する発電機が電気を生み出したからだ。この辺りはキックスタートと同じ原理だ。

市販バイクの場合は、点火プラグの他にヘッドライトやウインカー等の灯火類も電気を使うが、もっとも電気が必要なのはスターターモーターを回す時。だからバッテリーが上がっても、押しがけでエンジンさえかけてしまえば、後は発電機が電気を賄ってくれるのだ。

ちなみにレースのスタートのように1人で押しがけするのはそれなりに練習しないと難しいが、仲間に手伝ってもらえるなら意外と簡単。ライダーはあらかじめバイクに跨り(キーON、ギヤ2~3速、クラッチレバー握って待機)、仲間にバイクを押してもらって、勢いが付いたらクラッチを繋ぐ。そしてエンジンがかかるまで仲間が押し続ければ良い。
……が、これでエンジンをかけられるのは、基本的に2000年代前半頃の「キャブレター車」までだ。

フューエルインジェクション車は、ほとんどが無理

バイクは1980年代中頃から、燃料供給方式がキャブレターから徐々にフューエルインジェクション(電子式燃料噴射装置)に移行し(BMWやドゥカティ等の欧州車が早く、日本車のインジェクション化は1990年代後半からが主流)、現在は一部の競技用車両などを除けば、ほとんどがフューエルインジェクション車だ。

キャブレターが重力や物理現象のみでガソリンを霧化してエンジンに供給しているのに対し、フューエルインジェクションはガソリンを圧送する電磁ポンプや、噴射する電気式のインジェクター、そして噴射量を制御するECU(エンジンコントロールユニット。いわゆるコンピューター)などが必要で、これらはすべて電気で働く。

というワケで、いくらエンジンさえかかれば発電するとはいえ、それ以前の問題。押しがけはセルモーターの代わりにはなるけれど、まずはバッテリーの電気でポンプやインジェクター、ECUを稼動させなければ、エンジンをかけることは不可能なのだ。この辺りは「バッテリーの上がり具合」や車種にもよるが、セルモーターがまったく回らず、ホーンなども鳴らないくらいバッテリーが弱っていたら、大抵は無理だと思った方が良い。

車種によってはバッテリーが大丈夫でも押しがけ不可の場合もアリ

ならば、フューエルインジェクションがきちんと作動するバッテリーが元気な状態なら、押しがけできるのだろうか?(押しがけする意味の有り無しは別として) これはメーカーや車種によって異なるが、一般的な公道用のスポーツバイクだとかからない場合が多いかも。誤作動やトラブルを防ぐため、クランクが設定以上の回転数にならないと燃料噴射や点火を行わないようにプログラムされていたりするからだ。
なので、昔のGPの映像などで押しがけのカッコ良さに憧れてチャレンジするのはありだが、エンジンがかからないからといって、くれぐれも無理しないように。

ツーリング先でバッテリーが上がってしまうと、時間通りに出発できずに仲間にも迷惑をかける。乗らない期間が長くなったり、何年も同じバッテリーを使ってバッテリーが弱くなっていたら、充電したりバッテリーを交換するなど、きちんとメンテナンスしておきたい。