そもそもボア×ストロークって?
最近ロングストロークという表現をみる。エンジンのピストン往復が長いタイプのことで、バイクのキャラクターを左右する象徴として使われることが多い。
これはエンジン性能で高い数値を追求してきた日本車には稀な仕様で、海外メーカーもイメージは中速型でも様々な理由でロングストロークはあまり採用されてきていない。
まずその前にボア×ストロークの意味を説明しておこう。
エンジンは燃焼室の爆発から、ピストンがシリンダー(気筒)の中の往復運動をクランクで回転に換え、クラッチやミッション(変速機)を介して後輪を駆動する。
その肝心の燃焼できる吸気量がエンジンのサイズ(総排気量)で、250ccとか750ccという容積による違いとなっているのだ。
容積はピストンがシリンダーの中を往復する容量。
たとえばドゥカティのパニガーレV4Sはピストンの直径が81mm、この円形の面積は40.5×40.5×3.14、そこへストロークが53.5mmを掛け合わせると容積が275.5cc、それが4気筒あるので1103ccとなる。
つまりピストンが往復する筒の容積が、1回に吸える混合気の量で、これがエンジンの大きさを決めているというわけだ。
なので、このストロークが長くてもボアが小さければ排気量は大きくならない。
ではなぜショートストロークやロングストロークなどと呼ぶのだろう。
エンジンは燃焼したパワーだけでなく、これを低い回転域でもピストンの往復運動を止めないためにクランクにはかなりの重さの錘(おもり)がついて、これがエンジンの粘りなどと呼ばれる主にトルクの発生に関与している。
ところがこれが重いと、高回転域ではスロットルの開け閉めのレスポンスを鈍らせることになってしまうのだ。
エンジンは1回の燃焼で得られるパワーを、回転を速くすればそれだけ発生回数が増えて総出力が高まる。
つまり高回転エンジンにすれば、最高速やゼロ発進などの絶対パフォーマンスをアップできるというわけだ。
追い越し加速ならロングストローク、
最高速ならショートストローク
ということで、ロングストロークの代表選手、ロイヤルエンフィールドのハンター350と、ショートストロークの代表格、カワサキのZX-25Rを比較してみよう。
ロイヤルエンフィールドのハンター350は、ボア×ストロークが72×85.8で349cc。ストロークのほうがボアより大きい典型的なロングストロークだ。
対してカワサキZX-25Rは、ボア×ストロークが50×31.8×4気筒の249cc。ボアのほうがストロークより大きい典型的なショートストロークとなっている。
そしてエンジンのパワー発生が、20.2PS/6,000rpmと45PS/15,500rpmといった大きな違いがある。
これは単気筒と4気筒との違いだけでなく、ロングストローク仕様は出力のための高回転化をしないため、低い回転域の力強さとレスポンスの良さなど独得の特性だ。ビッグバイクに多い2気筒にも稀にロングストロークがあり、4気筒とはかなりキャラクターも違ってくる。
このように、エンジンは高性能に優位な多気筒~2気筒~単気筒と、中速域やそれ以下に強いツインやシングルのエンジン形式となっているのだ。
急かされないロングストローク、
発進から気遣いなく疲れない!
そして日本車がほぼ経験してこなかった、ロングストロークのエンジン形式が、パフォーマンス至上主義ではない時代が到来しつつある最近では注目を浴びている。
このところ人気が出てきたロイヤルエンフィールドの350シリーズ3機種も、発進でエンストしにくく半クラッチに神経を遣わない扱いやすさ、街中やワインディングで瞬時の加速に優位な低中速トルクでアクティブに乗れるなど、乗る時間が長いほど疲れが出ないというメリットが大きい。
日本製バイクは、単気筒でもオフロードモデルから転用するのがほとんどで、そもそも瞬発力重視で開発されたエンジンはショートストローク仕様。あのSR400も同様で、実はロングストロークではなく、そういう意味では日本車に乗ってきたライダーは本格的なロングストロークを知らないということになる。日本メーカーもこのロングストローク化を注視していて、GB350など新機種に採り入れはじめている。
時代はこれまでのショートストローク一辺倒から、ロングストロークと混在するようになってきた。