ブロックでも舗装路で良好なグリップ、瓦礫に弾かれない柔軟性
欧米で大型バイクの中心的な位置づけまで流行ってきたアドベンチャー系カテゴリー。
砂漠が続くパリダカを制した、大型オフロード系のイメージをベースに、そんなサバイバルな逞しさを長距離ツーリングでの新たなポテンシャルとして、旅バイクの主流にまでのし上がってきた。
しかしツーリングバイクを乗り継いだライダーには、非舗装路を意識したタイヤを装着しているのに、果たして高速道路のクルージングや、一般のワインディングで安心できる安定性やグリップが得られるのか、そんな心配がアタマをよぎっても不思議はない。
が、実際に走ればすぐわかるのだが、いわゆるブロックパターンを装着したオフ系のバイクのような、足元が掴みドコロのないグニャグニャ感など皆無。
高速道路でもこれまでのツーリングバイクと遜色ない直進安定性に、ワインディングでもネイキッドスポーツと変わらないグリップ力でグイグイ曲がっていく。
従来のブロックパターンのタイヤとの最大の違いは、完全なラジアル構造へと進化を遂げていることがある。
とくにピレリのSCORPION RALLYは、内部の繊維(カーカス)構造が、0°(ゼロディグリー)と回転方向で膨張を抑えるベルトに直交したサイドウォールとで構成され、高速での腰のある安定力とグリップの基本をしなやかな路面追従性で得る、理想的なポテンシャルが構築されているのだ。
この変形の追従性は、従来の常識を覆すたわみ方で、大きな安心感と操る醍醐味にも繋がっている。
そしてもちろん、ブロックパターンの配列など、その形状にも積み重ねたノウハウが活用されているのだ。
そもそも溝の少ないオンロードタイヤが、ちょっとした非舗装路へ足を踏み入れた途端、前輪から左右へ逃げて一気に不安定になるのは、たとえば砂利の小石を弾いてタイヤを横方向へ逃げる動きを与えてしまうという理由が大きい。
ブロックパターンは、このブロックの柔軟性と深い溝が瓦礫の尖った部分を吸収、全体にやんわりと包み込むような動きでバイクをホールドできるので、思い通りに操れる特性をキープできるという違いがある。
こうしたオフロードでのノウハウを、舗装路での安定性やグリップとを融合させるのが、最新のブロックデザイン。
タイヤが瓦礫に弾かれない特性を、溝の幅やピッチとで絶妙に得ているため、ちょっとした非舗装路へ踏み込んでも安定したハンドリングが得られている。
このように見た目からは想像もつかない進化が、アドベンチャー系の舗装路でのツーリング・ポテンシャルを大きく変えたのだ。
水はけの溝……ではあるけれど、温度と柔軟性がグリップを支配!
タイヤのゴムは一般的に暖まらないと路面をグリップできないとされてきた。
しかしこの常識を覆す変革が、タイヤのトレッド・デザインの意味さえ変えはじめている。
まずトレッドに刻まれた溝(グルーブ)には、雨のときに路面とタイヤの間に水膜を生じると浮いて滑りやすくなるのを防ぐ水はけ効果が目的と考えられてきた。
確かにレースのレインタイヤには、深い溝があってこのおかげでグリップできると思いがちだ。
もちろん水しぶきを上げるほど雨が降れば、この水はけ効果は大きい。
が、レース中に雨が降り出し路面を濡らしても、レースライダーは暫くスリックタイヤのまま走り続ける。
溝がなければ瞬く間に滑ってしまいそうだが、タイヤが暖まったまま急激に冷えない状況があれば、パワーでドリフトするようなことさえ避ければ、そこそこグリップできる特性のコンパウンドだからだ。
ただ完全に冷えたり水膜を生じる状況になれば、中継などでご覧になったように、ウエットレース宣言後にレインタイヤのバイクと交換しにピットへ飛び込んでいく。
そして雨の中、水しぶきを上げながら膝を路面に擦るまで深くバンクして走る、まさに魔法のようなシーンが見られるワケだ。
しかしこのレインタイヤ、その溝が水はけの主役であるのは当然だが、それだけでは膝を擦れるバンク角は得られない。
雨で路面が完全に冷え、タイヤも走行風で冷えるいっぽうの状況でも、しなやかに細かい凸凹にも路面追従するコンパウンドと、カーカスが柔軟にたわんで路面全体のうねりなどに対応するしなやかさ無くしてあのパフォーマンスは得られない。
「しなやか」さがグリップや安定性に耐摩耗性を向上している!
この暖めなくてもそこそこ柔らかさを保てるコンパウンドと、何よりタイヤの剛性と柔軟性とをバランスさせるカーカス構造のテクノロジー進化が、タイヤの常識を片っ端から覆しはじめている。
まさにこの10年ほどの間に、主にカーカス構造の進化をベースに、コンパウンドの温度依存が少ない特性への進化が加わり、パフォーマンスと安心感は劇的な変化を遂げた。
それはツーリングタイヤのトレッドデザインにも大きな変化となって表れている。
従来トレッドの溝は、水はけ効果だけでなく、溝のエッジ(縁)部分が柔らかくなる原理を使い、トレッドのコンパウンドが少々硬めでも柔軟性アップで追従性をキープできるよう配列していた。
それがコンパウンドそのものが、温度が高くなくても、つまり速度が低い一般道路でも柔軟性の高い「しなやか」さを得られることになり、トレッドの溝の深さや配列が少なくても、追従性能が稼げる次元の異なるパフォーマンスへと変化しつつある。
とりわけカーカス構造で、ラジアル方向の繊維間隔を広げ、大きく凹んだときに空気の抜けたバレーボールのような逆に内側へ凹んで路面との接地圧がドロップしてしまうのを防ぐ特性としたり、これまで考えられていた空気圧の概念まで覆しているのだ。
アドバンチャー系も、スーパースポーツ系も、装着するタイヤで大きな変革が起きているのを理解しておく必要があるだろう。
キーワードの「しなやか」度合いの格段の進化が、大事な安全と醍醐味を高めている。
新しい世代へのタイヤ交換が、安全と醍醐味への投資となるのもぜひお忘れなく!