英語的にも位置的にも、いまどきはバックステップと呼ばないのが主流に
かつて(けっこう昔)の“走り系カスタム”といえば「セパレートハンドル、バックステップ、集合マフラー」が定番。そもそもネイキッドという呼称が登場する以前、市販のスポーツバイクをレーシングマシンに改造する定番の手法であり、またレーシングマシンを模して“カフェレーサー”を作る際もハズせないパーツだった。
なかでもバックステップは、市販バイクは1970年台頃までスポーツモデルでも上半身を完全に起こした“殿様乗り”の乗車ポジションが普通だったから、ライダーが伏せた前傾ポジションを取るためには、低いセパレートハンドルと共に重要視されたわけだ。
1980年代中頃に登場したレーサーレプリカのステップはかなり後退したが、それでも本物のレーサーよりは前方に配置されていたから、やはりバックステップに交換するライダーは多かった。また、カウル非装備のネイキッドを戦闘的な前傾ポジションにカスタムするために、バックステップは依然人気の高いパーツだった。
……ところで“バックステップ”という呼び方は、じつはバイク用語に多い造語のひとつで、海外では“Rear set foot rest”が一般的。Back stepを翻訳すると“後ろ向きステップ”という面白い意味になってしまう。
近年は、バックしていないステップもたくさんある
そして1990~2000年と時代が進むと、とくにスーパースポーツは本格レースのベースマシンとしても使われるようになり、ステップの位置も十分以上に後方に下がった。そしてライダーの体格や乗り方によっては、ともすれば“ちょっと後ろ過ぎ”な車種もあるほどに。
そこでノーマルと同じ位置や、ノーマルより前方を選択できるステップを製作するアフターパーツメーカーも出てきた。そうなると、もはや後方に下がっていないので、造語とか和製英語とかと関係なくバックステップという呼び方に違和感が……。それもあって近年は「ライディングステップ」や、シンプルに「ステップキット」と呼ぶパーツメーカーが増えている。
とはいえ「ノーマルと同じ位置や前進するなんて、交換する意味が無い」と考える方もいるだろうが、それは早計。近年のステップキットはいくつかのポジションを選べる製品が多く、前方に移動するポジションも含めて、ライダーの体格はもちろんバイクのコントロールや身体を保持するために適した位置をしっかり追求。
さらなるメリットは、剛性の高さとステップバー自体のグリップの高さで、スポーツライディング時の左右への体重移動のしやすさが向上する。ウエット時も滑りにくく、バイクとの一体感をキープしやすい。
また、シフトやブレーキの操作性を高める構造や形状の製品も多く、ステップを交換することで操作フィーリングの向上も望めるのだ。
こちらはアメリカで人気のAMAスーパーバイクに参戦したカワサキの市販レーサーZ1000S1(1982年)。ベースとなる市販車のシルエットを守るレギュレーションなので、ノーマルのZ1000Rと比べステップ位置も大差ないように感じるが、見比べるとステップバー2本分ほど後方に下がり、1本分ほど上に移動しているのがわかる
ドゥカティのパニガーレV2用に、ポジション系パーツで有名なAELLA(アエラ)が開発・販売する「ライディングステップキット」。ノーマルのステップ位置に対して前方18mm/上方20mm、18mm/上方30mm、18mm/上方40mm、28mm/上方20mm、28mm/上方30mm、28mm/上方40mmの6ポジション可変。スポーツ走行でコントロールしやすい位置を追求した結果、6ポジションすべてをノーマルより前方に配置。もちろん車種ごとに最適な位置を探っているので、後方に移動する場合もあるし、ノーマルより低い位置に設定することもある
こちらはケイファクトリー製のZRX1200DAEG用ステップ。ちょっとスポーティに走ると擦ってしまうこともあるため、ネイキッド用はまだまだバックするものも多い。ジュラルミンを高精度で削り出したライディングステップは4ポジション可変(35mmアップ/35mmバック、45mmアップ/40mmバック、35mmアップ/45mmバック、45mmアップ/50mmバック)。シフト/ブレーキペダルは操作フィーリングに優れた同軸タイプで、ペダル先端部は足のサイズなどに合わせて5mmの位置調整が可能。逆チェンジにも対応し、カラーはブラック、ゴールド、シルバーの3色を用意