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このバイクに注目
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TESI H2

テージ H2が採用する“ハブセンターステア”ってどんなメカニズム? どんなメリットがあるの?

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ビモータ

エンジンから前後にスイングアームが伸びる違和感……これこそがビモータのテージシリーズのアイデンティティだが、ビモータはなぜこのハブセンターステアを採用し続けるのだろう

いま、世界中のエンスージアストが注目する、カワサキの資本参加による新生ビモータ第1弾の「TESI H2」。カワサキ製スーパーチャージドエンジンと、ビモータならではのハブセンターステアリングシステムを融合した夢のマシンだ。
しかし、この“ハブセンターステア”とは、そもそもどんなメカニズムなのだろうか? そしてどんなメリットがあるのだろうか?

車名の「TESI」は、イタリア語で“論文”を意味する。ビモータの現社長でテクニカルディレクターでもあるピエルルイジ・マルコーニ氏が、ボローニャ大学在籍中にハブセンターステアリングを基としたバイクの卒業論文を作製したのが由来となっている。
とはいえマルコーニ氏がハブセンターステア機構の発明者というワケでは無く、じつはこの機構自体は1990年代初頭から存在する。ところが1930年代に登場した“テレスコピック式フロントフォーク”の急速な進化によって、バイク市場から姿を消してしまったのだ。

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エンジンから伸びるフロントスイングアームはかなりの違和感。しかし、これまでのテージでハンドリングに違和感のあったモデルは1台もない。TESI H2も期待を裏切らないはずだ

テレスコピック式フロントフォークが主流な理由は?

現在、ほとんどのバイクが採用するテレスコピック式フロントフォークは、サスペンションとしての“衝撃吸収”と、ステアリングとしての“操舵”の機能を一体化したシステム。
ハブセンターステアと比べたらシンプルで、かなり合理的な構造。だからこそ進化し、メジャーな存在になったのだがデメリットもある。厳密に言うとブレーキ時にノーズダイブするとキャスター角が起きてディメンションが変化してハンドリングが変わるし、剛性が足りなければバネのようにしなって飛び跳ねたり、フリクションが増して動作も悪化する。
それを改善するために、様々な箇所の剛性を上げたりスプリングの反力を強めると、重量が増したりハンドリングが悪化する可能性も高い。テレスコピック式フロントフォークは、そこを材質や工作精度などの技術進化で上手くバランスさせながら、現在に至っているのだ。

ハブセンターステアの基本構造

そこでハブセンターステア機構は、“衝撃吸収”と“操舵”を切り分けることに主眼を置いて開発。まず後輪同様のスイングアーム式とすることで剛性を確保し、ブレーキ時に大きくノーズダイブしない設定を実現。
そして、一般的なバイクならメインフレームの前端で、フロントフォークを支えるトリプルクランプを保持する形のステアリングステム(ステアリング軸)を、なんと前輪ホイールのハブ内部の中心に配置した。これが“ハブセンターステア”の名の由来である。そしてリンク機構でハブとハンドルを繋いでいる。

この構造により、ハードブレーキ時でも操舵に影響を及ぼさず、ディメンションも大きく変化することが無い。またノーズダイブが極めて少なく無用なピッチングを起こさないのに、ハードブレーキング時でも路面の凹凸にキチンと追従できるため路面からのインフォーメーションが得やすく、結果として前輪のグリップをしっかり引き出すことができる。

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エンジン前部にはスイングアームリンクを結ぶいかにも剛性の高そうなアルミブロックを装備。長いリンクロッドを介してフロントサスを伸縮させる

乗れば誰もが体感できる絶対的な安定性と不安の無い軽快なリーン

さらにハブセンターステアは、バイクが傾きながら向きを変えて旋回する時の、専門的には“ロール軸”と呼ぶ中心軸が極めて“低い”。一般的なテレスコピック式フロントフォークのバイクだと、後輪の接地点からフロントフォークと直角に交わる角度(トリプルクランプの少し下くらい)に延ばした線がおおむねロール軸となるが、ハブセンターステアだと遥か下方になる。

しかも無用なピッチングも起こさないため、常に高い安定性を保ちながら、軽く素早く向き変えを行える。もちろんテレスコピック式のバイクも安定性と軽快な操舵の両立を目指して設計しているが(キャスター角やトレール量など)、速度レンジやブレーキの強さ等によって相応に特性が変化してしまう。しかしハブセンターステア機構は、その変化幅が極めて少ないのだ。

とはいえハブセンターにも弱点が無いわけではない。加速時にリバウンド量が足りないと感じるシーンがあるのだ。サーキットの長い下りストレートの先のカントの少ないカーブ等では、前輪の存在が希薄になることがある。とはいえ、かなりのアベレージでなければ、そこに不具合を感じることはない。そのほかのデメリットといえば構造の複雑さと特殊性で、従来からのエンジンやフレームからの汎用は、限りなく困難。また、フロントタイヤの交換も普通のバイクショップではできないだろう。ビモータ以外のほとんどのバイクがハブセンターステアを採用しない最大の理由はそこにある。

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TESI H2に初めて試乗したジャーナリストはイギリスのアラン・カスカートさん。これまで様々なテージはもちろんビモータにも試乗してきた大ベテラン

TESIには、いわゆるメインフレームが存在しない

ビモータがいままで作ってきたTESI 1D、2D、3Dは、いずれもドゥカティのL型2気筒エンジンを採用。単気筒+αの幅しかないシリンダー部を、アルミ削り出しの“オメガプレート”で挟み、そのプレートに前スイングアームを締結。ハンドルを保持する細いフレーム(強度を必要としないため)やシートレールもオメガプレートから伸びている。いわゆるアルミや鋼管で作ったメインフレームが存在しないので、軽さでも突出している。

しかしカワサキのエンジンを採用するTESI H2では、エンジン前部を2枚のプレートで左右から挟み、そこからフロントスイングアームが伸びる。そしてエンジン後部は、ショックユニットとスイングアームピボット用のブロックを設置する(ドゥカティのL型2気筒エンジンは、クランクケース自体にスイングアームピボットが存在するが、国産4気筒エンジンだとピボットは存在せず、フレームで保持するのが一般的)。
エンジンをフレーム剛体として使うのは既存のTESIと同様だが、並列4気筒+スーパーチャージャーは、吸気ダクト等も含むとかなり幅広なため、オメガプレートではなく前後で分離した構造としたと思われる。

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イタリアのリミニにあるビモータのファクトリーではすでに生産がスタートしている。前後スイングアームやエンジンのプレート、リンク機構はすべてアルミ削り出し。日本ではこれまでもビモータを取り扱ってきたモトコルセがディトリビューターとなる。

特異なショックユニットの配置は、並列4気筒が理由か?

そしてTESI H2では、前後サスペンションのショックユニットを、エンジン背後に2本並べた特殊な配置も特徴。車体に対して右側のショックがリヤ用で、こちらは一般的なリンク式のモノショック。そして左側のショックがフロント用だが、こちらはフロントスイングアームの左側後端下部から剛性の高い削り出しのロッドが後方に伸び、リンクを介してショックを伸縮させている。

エンジン側面やエンジン下部にフロント側ショックを配置したTESI 1D~3Dよりずいぶん複雑だが、これは奇をてったわけではないはず。並列4気筒だとエンジン幅が広く、4気筒分のエキゾーストパイプも相応にスペースを取るため、ショックユニットを従来のような場所に配置すると(それ自体が困難だが)バンク角が損なわれたり重心が高くなったりと不具合があるのだろう。しかし、エンジン背後の狭いスペースに前後2本のショックを並べられるのも、ビモータならではの設計や切削技術があってこそ。それはスイングアームのピボット付近の削り込みを見れば納得できる。

TESI H2を作れるメーカーは、ビモータしかありえない

ハブセンターステアのシステム自体は、ビモータやマルコーニ氏が発明したわけではない。しかし、この機構を近代の市販バイクで実用化できたのはビモータだけ。そこにはハブセンターステアの優位性に対する確固たる信念と、それを具現化するビモータの技術があるからに他ならない。その結晶であるTESI H2の走りがどんなライディングプレジャーをもたらしてくれるのか、期待で胸が躍る。

日本導入時期:2021年1月
価格:866万8,000円
世界限定:250台

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スタイリングデザインはイタリアンならではの独創性が光る。ボディパーツはすべてドライカーボン。エンジンスペックはH2から変更はない

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こちらはカワサキのZ1000エンジンを使ったKB4。若干クラシカルなフォルムもイメージさせる。こちらは昔ながらのビモータらしさを残したパイプフレームで、TESI H2よりはリーズナブルな価格設定になるはずだ

RIDE HI No.2ではTESI H2を4ページで紹介しています
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1966年にイタリアで、ヴァレリオ・ビアンキ(BI)、ジュゼッペ・モーリ(MO)、マッシモ・タンブリーニ(TA)の3⼈により設⽴された油圧空調機器を製作する会社「BIMOTA(ビモータ)」として創設。タンブリーニの趣味のオートバイへの情熱から製作されたHB1をきっかけに本業とは別にオートバイとの関わりを⼀層深め、数々のレースにおいて好成績を残したことからビモータは⾼性能なフレームビルダーとして認められた。

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協力/ モトコルセ
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