bimota_tesih2_211011_main.jpg
ピックアップ

【世界一詳しくTESI H2のハブセンターステアリングを徹底研究!】完全分解で“中身”を本邦初公開!コレで謎が解ける!仕組みがわかる!

Photos:
柴田 直行,折原弘之,モトコルセ

TESI H2のハブセンターステアリングって、いったいナニがどう凄いのか?

世界中のバイクエンスージャストを魅了するイタリアのビモータ。その数ある名車の中でも、TESIシリーズはハブセンターステアリング機構を備えた革新的なバイク。そして2019年に日本のカワサキが資本参加し、第1弾として登場したのが川崎重工業の技術を集結したNinja H2のスーパーチャージドエンジンを搭載した「TESI H2」だ。

RIDE HIでは誌面やWEB(「【ビモータ テージH2 試乗記】革新フロントハブステアと超絶ハイパーH2が合体!」)でTESI H2を取り上げ、YouTubeチャンネル(「『ビモータ TESI H2 日本初試乗!』First test ride of Bimota TESI H2 in Japan! Part1」)でも日本初試乗の動画を公開し、その超絶パワーと異次元のハンドリングをお伝えしてきた。

TESIの核となるハブセンターステアリングは、一般的なテレスコピック式フォークと異なり「操舵と衝撃吸収(サスペンション)を分離したシステム」。これはビモータやメカニズム好きのライダーなら、一度は目耳にしたことのあるフレーズだろうが、仕組みや動きを理解するのはなかなか難しい。実車を目にする機会も少ないからなおさらだろう。

そこで今回は、ビモータの総輸入元であり販売を行うモトコルセの協力により、TESI H2のハブセンターステアリングの心臓部を完全分解して本邦初公開!他に類を見ない革新的な機構を、存分にお楽しみいただきたい。

bimota_tesih2_211011_02
bimota_tesih2_211011_37

今回はTESI H2のフロント周りを全バラにして徹底解説。メカ好きは必見。テレスコピックフォークにはない不思議なディテールが満載だ

まずはバイクが曲がる仕組みを知っておこう!

……と、ハブセンターステアリングの“中身”を見る前に、その凄さを理解するためにも、まずはバイクの曲がる仕組みを簡単に復習しておこう。

バイクはハンドル操作ではなく、重心移動で車体を傾けることによって曲がるのはご存知の通り。それではなぜ車体を傾けると曲がるのか?バイクのタイヤは断面が丸く、直立して転がっている時は直進し、少しでも傾くと、その傾いた方向に旋回を始める。

だから曲がるために車体を傾けるのは、曲がりたい方向に後輪を傾けるための操作なのだ。そして自由に左右に首を振る前輪は“後輪の傾く動きに追従して自然に切れていく”。専門的には「セルフステア」と呼ぶが、これはキャスター(前輪を支えるステアリング軸の傾き)と、トレール(前輪の接地点と、ステアリング中心軸が路面と交わる点との距離)の作用によって生み出されている。

この、バイクがセルフステアによって曲がる仕組み自体は、一般的なテレスコピック式フロントフォークのバイクも、TESIのようなハブセンターステアリングも基本的に変わりはない。まずはココを基準に考えて、ハブセンターステアリングの構造を見てみよう!

bimota_tesih2_211011_03

一般的なテレスコピック式フロントフォーク(テレスコピック=潜望鏡のように、重なった筒がスライドする方式)。メインフレーム前端にステアリングピボットを備え、フロントフォークを保持するトリプルクランプ(三つ又)で勘合し、前輪が自由に左右に首を振る(舵角が付く)。そしてテレスコピック式フロントフォークが伸縮することで衝撃を受け止め、操舵と衝撃吸収の機能を共有している

bimota_tesih2_211011_04

TESI H2のハブセンターステアリング。ステアリング軸は、文字通り“ハブの中心(センター)”に収められている。キャスターやトレールの作用で前輪に舵角が付いて曲がる仕組み自体は、テレスコピック式フロントフォークのバイクと変わらない。前輪を支えるスイングアームには衝撃を吸収するショックユニットを装備するが、操舵機構と完全に切り離されているのが大きな特徴だ

ハブの中”に操舵機能のすべてが詰まっている!

ハブセンターステアリングの名の通り、前輪が左右に切れる操舵機能は、前輪の大きなハブの中に詰まっている。そのため一般的なバイクは前輪ホイールの中心部と一体のハブが、当然だがホイールと一緒に回転しているが、ハブセンターステアリング車のハブは回転せず、ホイールのみが回転する。

bimota_tesih2_211011_05

前輪ホイールのみ外した状態。中央に見える大きな筒状の部分が“ハブ”だ。左右のブレーキキャリパーのサポートのすぐ内側に、大径のホイールベアリングを介して前輪ホイールがセットされている。ちなみにこの写真は、ハブを見やすくするためにホイールを取り外して再度組み立てている状態で、本来はタイヤ交換時でもハブとホイールを分離することはない(分離する作業自体が高いスキルを必要とし、手間もかかる)

bimota_tesih2_211011_06

ハブから外した前輪ホイール。手に持っているのが巨大なホイールベアリング(写真のホイールの反対側に嵌まっていたベアリング。ハブと分解するために外した)。このベアリングを外側からカバーするような形で、ブレーキキャリパーサポートがハブの側面にボルト留めされている

ハブセンターステアリングをステアさせてみよう!

次の3枚の写真は、車両の正面から車軸の高さで見たところ。ステアさせると(前輪を切ると)真横に首を振るのではなく、ハブ側面の長円の溝に合わせて“斜め”に動いているように見える。これはキャスター角が付いているためで、じつはテレスコピック式フロントフォークのバイクの前輪も同様の動きをしている。
ちなみにブレーキキャリパーサポートのハブに留めている部分が、驚くほど“薄い”のに気づいただろうか。TESI H2ではビモータの従来のハブセンターステアリングのモデル(TESI 1D~3D)と比べてかなり薄くなっているが、じつはこの部分が薄いほどハンドルの切れ角が大きくなる。ハブセンターステアリングの弱点のひとつであるハンドル切れ角の少なさを緩和するための工夫で、TESI H2は従来モデルより明らかにハンドルが大きく切れる(取り回しやUターン時に効果アリ)。
それではいよいよハブセンターステアリングの心臓部を分解してみよう!

bimota_tesih2_211011_07

前輪が真っ直ぐの状態

bimota_tesih2_211011_08

(車体に対して)右にフルロックまで切っている状態

bimota_tesih2_211011_09

(車体に対して)左にフルロックまで切っている状態

ハブセンターステアリングの動き方

これがステアリング軸だ!

本邦初公開!これがハブの中心に仕込まれた“ステアリング軸”だ。スイングアーム先端の左右に通ったアクスル軸的なシャフト(パーツ名は“フロントホイールスピンドル”)の中央に設けた穴が、一般的なテレスコピック式フロントフォークのバイクの、フレーム先端のステアリングピボットに相当する部分。その穴を貫いて十字に交差している短いピンが、一般的なバイクのトリプルクランプ(三つ又)のステアリングステムシャフトに相当する。ご覧の様にこのピンは路面に対して垂直ではなく角度がつけられており、これがキャスターになる。
そして、短いピンの上下にテーパーローラーベアリングを介してハブが固定され、そのハブにホイールベアリングを介して前輪がセットされているワケだ。

bimota_tesih2_211011_10

フロントホイールスピンドルの中央に貫通穴が設けられ、そこにステアリング軸となるピンが通っている。これこそがハブセンターステアリングの心臓部。
ちなみにビモータの従来モデル(TESI 1D~3D)では、フロントホイールスピンドルはロストワックスの鋳造製だったが、TESI H2ではこのスピンドルをアルミ削り出し製に変更して強度を高めている。とはいえ一般的なバイク(前輪のアクスル軸と車体のステアリングピボットの間に衝撃を吸収するフロントフォークが介在する)とは異なり、スピンドルやステアリング軸のピンがダイレクトに衝撃を受けるので、過剰なウィリーなどは避けるのが賢明だ

bimota_tesih2_211011_12

ステアリング軸のピンの上下に、アルミブロックから総削り出しされたハブの内側からテーパーローラーベアリングが嵌まっている(写真では下側のテーパーローラーベアリングはハブ内に入った状態)。そしてハブの上方向からカバーで押さえる形態でボルトで固定される。
そのボルトの締め付けトルクなどは指定されているが、単に数値的にトルクを合わせるだけではハブがステアする動きが渋くなったり、反対にガタつくこともあるという。締め付けトルクのかかり始める瞬間を緻密に管理するなど、ハブセンターステアリングならではのハンドリングを正しく発揮するには、組み立てに高い経験値を要する。
従来モデル(TESI 1D~3D)ではステアリング軸となるピンが、ハブの上下方向から差し入れる分割構造だったが、TESI H2ではシンプルな1本ピンになった。これも剛性向上に役立ち、スムーズなハンドリングに寄与していると思われる

曲がりやすいディメンションを常に維持する秘密はココだ!

テレスコピック式フロントフォークのバイクは、カーブに進入する前にブレーキングすると、フロントフォークが縮んで車体姿勢が前のめりになる(“ピッチング”を起こす)。すると路面に対してキャスターの角度が立ち、同時にトレール量も変化するためハンドリングが一定ではなく、ライダーの操り方によっては曲がる強さも変わってしまう。
対するハブセンターステアリングは操舵機構と衝撃吸収機構が独立しているため、ブレーキングしてもほとんどピッチングを起こさない。とはいえ、前輪は路面の凹凸に追従する必要があるので、フロントスイングアームは上下に動く。しかしステアリング軸のピンはリンク機構によって、スイングアームが上下しても路面に対する角度を変わらずに維持する。要するにキャスター角が変化せず(そのためトレール量も変わらない)、曲がるための車体姿勢やディメンションを安定して維持することができるのだ。

bimota_tesih2_211011_14

フロントホイールスピンドルは、フロントスイングアームに対して固定されておらず、スライドメタルのブッシュを介してクランプされるので自由に回転できる。そしてスイングアームの外側に突き出した部分にリアクションレバーと呼ばれるレバーが装着され、その先端がステアリングロワーロッドでエンジン側のプレート(エンジンにスイングアームを取り付けるための大きなアルミ削り出しのブロック)にボールジョイントで繋がれる。このリンク機構によって、スイングアームが上下してもステアリング軸のピンの路面に対する角度(キャスター)は一定に保たれる

細部の進化がハンドリングの精度を高める

ステアリング軸のピンを一定に保つためのレバーやロッドは、スムーズかつガタつきの無い状態でなければハンドリングが損なわれてしまう。そこでスピンドルトレバーの勘合部などは従来型より複雑な形状に加工され、精度と強度を高めている。こういった細部の進化がTESI H2では多数見受けられる。

bimota_tesih2_211011_16

スイングアーム外側に突き出したフロントホイールスピンドルの端には波型のセレーショーション(鋸歯状)加工が施され、よく見ると先端に向かって細くなるテーパー形状になっている。これは角歯のストレートな一般的なセレーション(従来のTESI 3D NAKEDまではこちら)と異なり、高性能な切削機械(コンピュータ制御の多軸のマシニングセンタなど)を使わないと加工できない

bimota_tesih2_211011_18

フロントホイールスピンドルのセレーショーションに嵌まるリアクションレバーも、波型でテーパー状に雌型に切削されている

bimota_tesih2_211011_19

スピンドルにレバーをセット。この状態で外側から固定用のボルトを締め込むと、互いがシッカリと噛み合ってまったくガタつかない。ちなみに、いったん噛み合うとボルトを外して手で引っ張っても抜けないため、TESI H2には取り外すための専用工具が同梱されている(タイヤ交換時にこの部分を分解する必要があり、作業頻度が高いため)

操舵とサスペンションを別体とした機能の“ハンドル”はどうなっている?

バイクは重心移動で車体を傾けて曲がるから、ハンドルは必要ない……ワケではない。低速の小回りやUターンではハンドルを切るし、もちろん押引きの取り回しでもハンドルが使えなければ困る。とはいえテレスコピック式フロントフォークの様に、前輪とハンドルをダイレクトには繋げない。そこでいくつものリンクを介してハンドルとハブを繋げて、スイングアームが上下動している時もスムーズにハンドルとハブ(=前輪)が連動。っまた、ハンドルを切って押し引きしてもまったく違和感がない。
ちなみにTESI H2のハンドルのリンク機構は、幅の広い4気筒エンジンや大きなラジエター等を避ける必要があるためか、従来モデル(TESI 1D~3D NAKEDは幅の狭いドゥカティの2気筒エンジンを搭載)と比べると、複雑に取り回している印象がある。

bimota_tesih2_211011_20

TESI H2は車体左側で多数のリンクを介してハンドルとハブを繋げている。ハンドルから順番に見ていこう

bimota_tesih2_211011_21

左のハンドルバー(トップブリッジに固定する根元はアルミ削り出しで、バーはドライカーボン製)のハンドル基部が下方に伸び、先端にボールジョイントを装着

bimota_tesih2_211011_22

ハンドルのボールジョイントからロッドでアッパーステアリングレバーに連結。レバーの下部はラジエターホースに隠れて見えないが……

bimota_tesih2_211011_23

アッパーステアリングレバーの下部からロッドが伸び、ロワーステアリングレバーに連結

bimota_tesih2_211011_24

ロワーステアリングレバーの下部から長いステアリングロッドが車体の前方に伸びて……

bimota_tesih2_211011_25

ステアリングロッドがボールジョイントを介して左側のブレーキキャリパーサポート(すなわちハブ)に連結される。写真は右にフルロックまで切った状態

フロントサスペンションはドコにある?

ハブセンターステアリングの最大の特徴といえるのが“操舵と衝撃吸収(サスペンション)を切り離したシステム”。ここまで解説してきた操舵システムには、衝撃を吸収するための機構が一切関係していないことがわかるだろう。

それゆえにブレーキング時も、車体が前のめりになるピッチングも起こさない。とはいえ普通の路面はデコボコしているし、サーキットでも完全に平坦ではない。だからブレーキング中や旋回中も路面の凹凸に対応しながら、タイヤが路面を追従する必要がある。

そのためのフロント周りの衝撃吸収機構はどうなっているのか?端的に言えば“一般的なバイクのリヤサスペンションと同じ”で、上下するスイングアームにショックユニットが装備されている。とはいえバイクによって、昔ながらの2本ショックやリンクを介したモノショックなど、ショックユニットの装着方法(=リヤサスペンションの方式)は様々。

その意味ではTESI H2のフロントサスサスペンションは“リンク式モノショック”ということになる。そしてショックユニット自体は、太く長いロッドを介して、エンジンの後方にリヤのショックユニットと並べて配置されている。

これはTESI H2のエンジンが幅広な並列4気筒ゆえに、ショックユニットの置き場が制限されたためと思われる(エンジン横に配置すると車幅が猛烈に広がるし、エンジン下だと4本のエキゾーストパイプがあるため車高やバンク角に問題が出る)。それらのハードルをクリアしつつ、前後サスペンションが連動する車高調整機構などのアイデアを盛り込んだところは、さすがビモータと思わせる部分だ。

bimota_tesih2_211011_26

フロントスイングアームの左側下部に太い削り出しのロッドが装着され、後方に伸びている。路面の凸で前輪(=スイングアーム)が押し上げられるとロッドは車体の前方側に引かれ、路面の凹みで前輪(=スイングアーム)が下がるとロッドは車体の後方側に押される

bimota_tesih2_211011_27

ロッドはエンジン後方の左側のショックユニットのL字型のリンクアームに連結。ショックユニットは前輪が押し上げられると圧縮し、前輪が下がると伸びる方向に動く

bimota_tesih2_211011_28

TESI H2の特徴的なディティールのひとつ。一見して「なぜリヤはツインショック?」と思う方も多いようだが、左側はフロント用のショックユニットで、右側がリヤのモノショックだ。ちなみに前後ショック共に上部マウントが同軸の構造になっており、エキセントリックカム(写真左側)を回すことで、同時に前後サスペンションの車高調整を行える(ハンドリングや足着き性が変わる)。同梱される専用工具を使って簡単に作業できる

従来モデルのフロントショックはドコにある?

ハブセンターステアリングのTESIシリーズ。従来モデルは1Dがドゥカティ851の水冷L型2気筒で、2D以降はドゥカティの空冷Lツインを搭載。いずれもエンジン幅が単気筒+αしかないため設計に自由度があり、フロントのショックユニットはエンジン周辺に配置している。しかし、モデルによってスイングアームの材質や形状と合わせ、サスペンション形式も変化しているところが興味深い。

bimota_tesih2_211011_29

TESI 1D

bimota_tesih2_211011_30

TESI 2D

初のハブセンターステアリング車であるTESI 1Dと、ヴァイルス社のOEMで販売したTESI 2Dは、リンクを介してエンジンの左側側面にショックユニットを装備

bimota_tesih2_211011_31

TESI 3D

TESI 3Dはリンクアームを介してエンジン右下に配置。ショックユニットは前輪の上下動と逆の動き(前輪が押し上げられると伸び、下がると縮む)をするプルロッドタイプを採用

bimota_tesih2_211011_32

TESI 3D NAKED

TESI 3D NAKEDは、リンクを持たないシンプルなカンチレバー方式だ

眺めるだけでもワクワクする作り込み

ハブセンターステアリングのメカニズムは大変興味深いが、TESI H2の実車を前にして目を奪われるのは、大胆かつ繊細な作り。フロントスイングアームをはじめ、心臓部のハブやスピンドルにピン、ブレーキキャリパーサポート等々、ほとんどのパーツがアルミ削り出しで作られている。

メカやカスタムパーツ好き、そして素材好きな人なら何時間見ていても飽きないだろう。こういうマニアックな作り込みも、ビモータの大きな魅力だ

bimota_tesih2_211011_33

フロントスイングアームを内側から見たところ。巨大なアルミブロックから削り出しているのが解る。フロントスイングアームは左右のアームと、左右を連結する中央部(ここはドライカーボン)の3つのパーツからなるが、驚くのはボルト留めではなく接着剤(航空機や宇宙船に使われる専用品)で3点を留めているところ。最新技術が投入されている

bimota_tesih2_211011_34

フロントホイールスピンドルのリアクションレバーと車体側を繋ぐ、細いステアリングロワーロッドもアルミの削り出しで、裏側はシッカリと肉抜きされている

ハブセンターステアリングが普及しないのにもワケがある。それだけにTESIの趣味性とプレミアム性は格別!

さて、ハブセンターステアリングを堪能いただけただろうか。仕組みを理解できると“こんなにメリットが多いのに、なぜ多くのバイクに採用されないのか?”という疑問が湧いてくるかもしれない。
まず主流のテレスコピック式フロントフォークは機構がシンプルなため、フォーク自体を多くの車種に転用できるメリットがある。対するハブセンターステアリングは、心臓部のハブ周りは転用できるかもしれないが、フロントスイングアームや保持するプレート(TESIは“いわゆるメインフレーム”が存在しない)は、車種=エンジンごとに専用品を作らなければならない。これが開発や生産コストに反映される。

メンテナンスも前述した通り、ハブセンターステアリングに関する知識と経験値がなければ難易度が高い。
ちなみに輸入元のモトコルでは「タイヤ交換時にはハブやステア軸の動作状態、ベアリングのサビなどを目視や感触でのチェックが必須で、少しでも異常があれば分解整備を行う」とのこと。分解整備のコストはベアリングなど部品代込みで10万円で、使用状況にもよるが5,000~1万km毎に行うことを推奨している。ちなみにこのベアリングの組み付けは長年ビモータを取り扱うモトコルセの中でも熟練のメカニックが担当することになっており、ベストなハンドリングを出すのは相当シビアとのこと。これは歴代TESIシリーズすべてに当てはまり、調子が悪いTESIシリーズは、ハブセンターステアリングがメンテナンスされていない(普通のショップではメンテナンスできない)ことが大半だという。

一般的なバイクもホイールベアリングやステムベアリングは走行距離が伸びれば傷むし、交換も必要になるが、やはりハブセンターステアリングは機構が特殊な分だけコストはかかる。だからプレミアムなバイクにしか採用できない、というのが実情だろう。それだけTESI H2は趣味性の深さも格別、といえるのではないだろうか。

最後に、この企画に惜しみないご協力をいただいたモトコルセに深く感謝申し上げます。また、ハブセンターステアリングに興味が湧き、TESI H2の実車をご覧になりたい方は、ぜひ神奈川県厚木のモトコルセMuseoに足を運ぶことをお勧めする。

bimota_tesih2_211011_36
協力/ モトコルセ
この関連記事が読めるのは

RIDE HI No.3
2021年02月01日発売 / 1,100円(税込)

『ネクストステージは、どのバイク?』

『ネクストステージは、どのバイク?』

RIDE HI No.3(2021年3月号)
RIDE HI No.3(2021年3月号)