水平対向2気筒は100年近い歴史、いまも存続できる最強の理由とは
無類の安定性による信頼感と巨大ボアのワイルドな瞬発力がスポーティな魅力でファンを惹きつけてきた
前から見ると両側へ巨大なシリンダーが突き出た水平対向ボクサーエンジン。ボクサーが胸のところでグローブを水平に突き合わせるポーズが、ふたつのピストンが往復する動きを象徴しているのでそう呼ばれはじめた。
このエンジン形式の最大の特徴は、シリンダーが水平なのでクランクシャフトから上に重いエンジン機構がないため、そもそも低重心で走行安定性の高さが抜群。
ボクサーが誕生した100年近く前から第二次世界大戦あたりまで、非舗装路が多かったり舗装されていても路面がバンピーだったりしていた環境で、ライバルより高速で走れる圧倒的優位さで、マン島をはじめ世界のレースも制していた最強バイクだったのだ。
天才エンジニアが作った高耐久のエンジン
もうひとつ、その当時に人気だった理由に耐久性の高さがあった。航空機エンジンのメーカーだったBMW(丸いマークの中に白と青が十字で配色されているのは回転しているプロペラと空の青をモチーフしたもの)が、第一次大戦の敗戦で航空機産業が稼働できなかった事情から、航空機用としてはメジャーな水平対向2気筒エンジンを、オートバイ・メーカーへ供給しようと設計したのがそもそものきっかけだった。このエンジンを手掛けたマックス・フリッツという天才エンジニアは、どうせなら車体も自社で生産して完成車メーカーを目指そうと、実は車体構造と一体化を構想していたのだ。
それがクランク軸を車体の進行方向と同じ縦にマウントし、トランス・ミッションやクラッチを当時は別体で繋いでいたのを、ひとつのエンジンケースへ収め、しかもシャフト駆動としてチェーンやベルトによる駆動で切れて立ち往生するトラブルの多かった時代に、故障知らずの耐久力の圧倒的差異をアピール。重心の低い高速走行も可能な安定性と共に瞬く間にベストセラーとなっていた。
天才エンジニアのマックス・フリッツが設計して1920年に製造がスタートした水平対向2気筒M2B15 は、各メーカーへ供給されていたが1923年に自社で車体も含めコンプリートバイクとして初の量産車R32が発売となった
一時は二輪からの撤退も考えられていたが……
しかし第二次大戦後、舗装路の整備も進みバーチカルツインなど英国製スポーツが台頭し、その後'70年代に日本製4気筒がマーケットを独占、BMWはツーリングモデルとして初のフルフェアリングを纏ったR100RSに活路を見出そうとしたが、厳しくなるいっぽうの排気ガス規制に空冷ボクサーの将来を悲観して、二輪から撤退も検討するほど窮地に追い込まれていたのだ。
しかし燃料噴射を前提とした横置き水冷4気筒Kシリーズで世代交代をはかろうとしたが、そうなると世界中の根強いファンがRシリーズの継続を求め、生産台数が衰えず、遂に次世代ボクサーを開発して現在に至っている。
同じ空水冷ボクサーツインを搭載した、ツーリングスポーツのR1250RS、ツアラーのR1250RT、そしてアドベンチャー系の世界的ブームの火付け役R1250GSもラインナップされている。他にもボクサー系でヘリテイジ系R nineTがあるがこちらは水冷でなく空油冷エンジン、最近加わった最大排気量のR18もボクサーだが専用エンジンを搭載している
BMWの強みでもある、燃料噴射と燃焼技術で先行できる技術力は、ボア径が100mmを超えると異常着火など支障が出やすいとされる定説を引っ繰り返し、ビッグボア最大の魅力であるスロットル全閉から急激に開けたときの凄まじい瞬発力を発揮。この類い稀な野性味溢れるアグレッシブなフィーリングは、ボクサーに新たなファンを呼び起こし、いまや幅広いユーザー層を抱えている。
もとからの素質である、水平にシリンダーがある重心の低さは、最新世代でもあらゆるシーンで絶対的な安定力を維持するのに加え、駆動系まで一体化構造とするメンテナンス・フリーの耐久性の高さで、10万kmなど珍しくないといわれるロングライフが人気。加えて初のABSを実用化したメーカーだけに様々な安全性や、電子制御技術でアドバンテージの高さでサスペンションの自動調整に至るまで、開発に時間と距離を費やす姿勢は依然として世界トップに違いない。
SPEC
- フレーム
- ダブルクレードル
- 重量
- 246kg(空車走行可能状態、燃料満タン時)
- タイヤサイズ
- F=120/70ZR17 R=180/55ZR17
- 全長/全幅/全高
- 2,165/850/1180mm