マン島T.T.レースや英国カフェ・カルチャーの感性をトラディショナルに定義したホンダ!
ホンダでトラディショナルなカテゴリーを代表するバイクといえばGB400/500T.T.だ。
1985年デビューのGB400/500T.T.は、その車名末尾に加えられたT.T.(Tourist Trophy)が示す通り、英国伝統のマン島T.T.レースに因んで名付けられている。
1960年代にホンダの世界制覇のきっかけとなったマン島T.T.レースは、1周60kmを超えるマン島のマウンテンコースから市街地を巡る世界一苛酷な公道レース。
この最高峰の地で西も東もわからない東洋からのエンジニアたちは、ジョンブル魂の厳しくも礼節を尽くすサポートで、瞬く間に覇を競う域まで辿りついたのだ。
そんな英国に恩を感じるホンダだけに、ヤマハSRに対抗すべく開発したGB400/500に込められたのは、カジュアルな雰囲気を優先するのではなく、硬派な本モノ感を漂わせる英国流カフェレーサー・カルチャーの反映だった。
英国スポーツバイクをカスタムしたライダー達が愛車自慢で集うカフェ……そんなカルチャーが定着し、いつしか前傾したフォルムをカフェレーサーと呼ぶようになった、その流儀を纏うバイクとしたのだ。
短くフラットなハンドルは、いうまでもなくビギナー向けではない。
後退したステップをはじめ、カフェレーサーの硬派な仕様と仕上げにこだわったスタイルに、硬派なライダーたちは酔い痴れた。
が、それがライバルと狙いを定めたヤマハSRとは相容れない、孤高の存在をアピールしていることに、ホンダ自身は気づいてなかったのだ……。
硬派な逞しさを漂わせて大人を意識したホンダ流カフェ・カルチャー
マン島T.T.をルーツに位置づけ、戦闘機のキャッチコピーが舞う硬派なGB400/500。
発売からバリエーションとしてMkIIのロケットカウルとシングルシート仕様まで用意するなど、ホンダが込めたパッションは、カジュアルなSRを好む層にはあまりにスパルタン、そして狙ったライダーの層も絶対数として少なかった。
ピュアにアピールするほど関心が遠のくことに気づいたホンダは、カラーリングとグラフィックでカジュアルさを加えたモデルを1987年から投入した。
搭載されたRFVC(ラジアル・バルブ)の放射状に配置した4バルブSOHC単気筒は、最強のオフローダーとして世界中から認知されていたXR系がベース。
GB400は84×72mmの399ccで、34ps/7,500rpmと3.4kgm/6,000rpm。GB500のほうは、92×75mmで498cc、40ps/7,000rpmと4.2kgm/5,500rpmのパフォーマンス。
ホイールベースは1,400mm(500は1,405mm)で乾燥重量は149kgは、キャリアの浅いライダーにはのけぞる加速と強大なトラクションで、ワインディングで真剣にコーナーと対峙するライダー向けのキャラクターだ。
エンジンの鼓動を聴きながら頬をくすぐる風を楽しみたいライダーには、排他的なキャラクターに捉えられていた。
ただ輸出もされていたので、カフェレーサーのカルチャーが定着していることもあり、本来はマイノリティなカテゴリーにホンダのような量産メーカーが生産する、どちらかというと硬派な期待ではなくカジュアルなトラディショナル路線をアピールしていたのだ。
さらには仕向け地によってはXBR500の車名で、スポークではなくコムスター・ホイールの、一般的なミドルクラス・スポーツとしてリリースされてもいたのだ。
いずれにせよ、日本国内ではホンダが想定したライダーは多くなく、大人のライダーなら食指が動くオプション類など、いまキャリアのあるライダーが見れば行き届いたコンセプトにグッとくる筈。
GB500のシートが赤いステッチや、シングルシートのバックスキン風アレンジだったり、大人の趣味性や遊びゴコロとこだわりが随所に見られ、1988年リリースの最終型はカラーリングとグラフィックが、現存すれば人気車種に間違いない感性といえる。
ピュアに過ぎると却って理解されない……ホンダがGB400/500で懲りた後遺症からの脱却が、意外にもまだ抜けきれていないと思わせる最近の製品群だ。
本来のチャレンジングなピュア・ホンダに期待したい!