敢えて2バルブで半球形燃焼室を採用!
1989年のゼファー(400)で湧き上がったネイキッド・ブーム。この流れをビッグバイクでもという勢いに乗ったカワサキは、1990年にゼファー750そして1992年にはゼファー1100とさらに大型のモデルも投入した。
ただ1991年に東京モーターショーで展示され、翌1992年から発売されたゼファー1100は、750版とは違ってアメリカ向け大型ツアラーのボイジャー1200に搭載された水冷4気筒エンジンがベース。
これをシリンダーから上をわざわざ空冷仕様に設計し直すという、特異な素性のパワーユニットを搭載した、ゼファー750とはまったく系統の違うモデルだった。
カワサキのボイジャーはそもそも6気筒エンジン搭載からスタートした大型ツアラーだったが、よりコンパクトな軽量化で超ベテランでなくても乗れるようにと4気筒で78.0×62.6mmの1,196ccとしたエンジンを新設計して換装していた。
ゼファー1100は、その開発コンセプトから空冷化した場合、冷却風が抜けるのに必要なシリンダーピッチ(間隔)が、このボイジャー4気筒のボアを78.0→73.5mmへと縮めることで可能という判断から開発がスタート。
またDOHCながら敢えて2バルブとしたのは、半球形燃焼室と組み合わせたかったからだ。
4バルブ化するとペントルーフ型の燃焼室となり、高回転時の燃焼効率は良いものの低回転域では空冷だと燃焼室の縁の部分で異常燃焼(ノッキング)が起きやすいデメリットを生じる。
ゼファー1100はトラディショナルなビッグバイクの良さとして、低回転域の逞しいトルクを楽しませるエンジンでなくてはならない。
ということで半球形燃焼室と、吸気φ39mmに排気φ34mmのビッグバルブが組み込まれ、大きなボアでも火炎伝搬にどんな回転域でも良好な燃焼とするため気筒あたり2本の点火プラグを採用しているのだ。
車体まわりはこのビッグトルクを発生する巨体エンジンを抱え込むのに、フレームはφ38.1mmのメインチューブがスイングアーム・ピボットの部分までを結び、ピボット部分を覆うアルミプレートも強度部材とするなど万全を期し、アルミの80×35mmのスイングアームは、内部にリブを内蔵した日の字断面で後輪アクスルをエキセントリックホルダーで締め上げる高剛性仕様としている。
などなど、650系ザッパーをベースとして開発されたゼファー750とは、各要素へ込めたテクノロジーがまるで異なる、いかにもビッグバイクならではの集合体としているのだ。
最終モデルまでカワサキのトラディデョナル定番カラーリングを展開!
輸出モデルでもあるゼファー1100は、国内向けでもパワーダウンをしていない10,62ccで93PS/8,000rpm、9.1kgm/7,000rpm。
一体型の鍛造クランクシャフトは、異なるボアやパワーフィーリングを向上させるため、ウェブのマス(質量)を小さく設定するなど新たに設計し直し、僅か1,500rpmからでもグイグイと加速し、3,000rpmを超えると俄然逞しくなり、5,000rpmあたりから増大せず一定に感じさせるという、徹底した中低速重視のチューン。
ハンドリングも小さなターンでも前輪が切れ込まないよう神経質な部分を消した設定で、いかにも乗りやすいと評判が広まり、好調なスタートを切った。
そして2006年の最終モデルまで、スポーク仕様のRSを加えたりしながら、カワサキではあのZ1以来定番のトラディショナルなカラーリングが展開されていった。
当然ファイヤーボールとイエローボールの、伝統的かつ情熱的なトラディショナル・カラーリングも存在した。
あの定評だった前輪がややアンダー気味に、絶大なる安定感の旋回で万人が心置きなく愉しめる堂々のビッグバイクの乗り味……排気ガス規制で大幅にパワーダウンしても良いので、空冷で甦るという夢は叶わないのだろうか?