わかったライダー向きのトラクション優先と趣味性が伝わるエンジンとフレームの露出度合い!

1990年代に入ると、ヤマハではトレンドを予感させるビッグツイン・スポーツの構想が持ち上がり、「エキサイティング・ビッグツイン」をキーワードに開発がスタートした。
狙いは、①強いパルス感を持つビッグツインエンジンフィーリングがある、②スロットルグリップとリヤタイヤが直結したようなダイレクト感がある、③軽快なハンドリングによるライトウェイトフィーリングがある、④高品質パーツの投入によりクオリティ感がる、に的を絞り具体化を進めることに。
そのビッグツインのベースとなったのはTDM850の水冷DOHCパラレル(並列)ツイン。
1989年にパリダカールの出場マシンをベースにリリースされたXTZ750から発展したTDM850は、気筒あたり5バルブで強大なトラクションと高回転クルージングが可能なパリダカールでの要求を反映していた。




このTRX850パラツイン最大の特徴は、270°の位相クランク。
実はパリダカの初レースではリスクを避けオリジナルの360°位相のままだったが、砂漠で蹴るトラクションと運動性を追求して、270°の不等間隔爆発でパルシブ且つ強烈なトルクの山が俄然強みを発揮したのだ。
エンジンが発生するトルクは、各気筒の爆発力と回転させるための慣性力との合力となる。
つまり爆発の間隔を変えることで、トルク変動も変わり、ご覧のように一般的な360°位相と270°位相とを較べると、クランク2回転(一行程)のトルク変動が際立ち慣性力成分が小さくなるため、爆発力を感じやすくできるのがわかる。
そもそも一次振動を抑える2軸バランサーを備えていて、オンロードでの快適性で優位なのはいうまでもない。
またTDM850がオフローダーでもあるため、エンジン下にオイルパンを持たないドライサンプ仕様で、オイルタンクをシリンダー背面に持つため重心位置の集中化も可能と、ロードスポーツとして俊敏な運動性をもたらす要素として大きく寄与することとなった。
さらに車体もハンドリングの良さを狙った前傾40°のシリンダー傾斜角に、車体上部が軽量でエンジンのカタチに沿って組んだトラスフレームのスリムさと低重心で、4気筒スーパースポーツとは次元の異なる走りの世界が誕生したのだ。



エンジンのスペックは、気筒あたり吸気3バルブと排気2バルブのDOHC5バルブ燃焼室で、ボア×ストロークが89.5mm×67.5mmの並列2気筒849cc。
最高出力は61.0kW(83.0PS)/7,500rpm、最大トルクが84.3N・m(8.6kgf・m)/6,000rpmと明確な中速域重視の設定だ。
ホイールベースは1,430mmと中型クラスのコンパクトさで、車重も乾燥で188kgに収めていた。
1995年、TRX850はエンジンとトラスフレームのフォルムを際立たせるため、ハーフカウル仕様でリリースされたのだ。
ただ日本国内でビッグツイン・スポーツの実績といえば、ヤマハではXSやTXといったスポーツ性が控えめな機種を思い浮かばせてしまう。
そこで国内向けにヤマハは、「欲しいのは、速い、おもしろい、それだけだ。」というキャッチコピーで、ヨーロッパのワインディングや街並みにフランスはポールリカール・サーキットでのシチュエーションで、新しいTRX850の狙いが何なのかをアピール。
当初からそうした伝わりにくさを意識して、たとえばブレーキにブレンボ製キャリパーを採用したり、タイヤもミシュラン製のビッグバイク用の最新ラジアルを装着、サスペンションも細かくアジャスタブルなマニアック仕様として、走りにこだわるライダー向けであるのを強調していたのだ。



対してヨーロッパでは270°位相クランクが醸し出す、トルクの山が力強いパルスを刻むイメージが強調され、トラクションを駆使した熱い走りが浸透していた。


しかし肝心の国内では初のスーパーツインというイメージを伝える難しさで、人気車種にはならないままが続いた。
5バルブツインのベースとなったTDM850は、2001年にTDM900とグラフィックを含めフォルム全体で変貌を遂げ、世界的に10年を跨ぐロングラン・モデルとして進化、そのエンジンを搭載したTRX900……新たな方向性のデザインへの期待と共に、乗ってみたい願望は少なからずあったファンもいた筈だが、それは夢のまま日本製スーパーツインは姿を消す運命を辿ったのだ。



