最新エレクトロニクスへの取り組みとMoto-Eの取材でボローニャ本社へ招聘!
2022年、ドゥカティはプロトタイプマシンで争われるMotoGPクラスに於いてライダースタイトルを2007年以来の奪還に成功、コンストラクターズタイトルも獲得、またチームタイトルをも獲得する見事トリプルクラウンに輝いた。
しかも今季、MotoGPクラスでその強さは更にパワーアップ、オーストリアGP終了時点でライダース・コンストラクターズ・チームと3部門でドゥカティがポイントをリード、手の付けられない速さだ。
そんなドゥカティの本社を訪れるチャンスを得られたので、レポートしたい。
今回、招かれたのは世界中から7名で、イタリア、イギリス、ドイツ、フランス、アメリカ、スペイン、日本からの代表。
タイトルは「Ducati Tech Talk」で、ドゥカティ社の最新エレクトロニクスへの取り組みと、今季からドゥカティのワンメイクで開催されているMoto-Eの取材だ。
日本からシャルルドゴールで乗り継ぐフライトでイタリア・ボローニャへの到着は深夜前。指定されたエアポート近くのホテルにチェックインをする。
ドゥカティのメンバーとは翌日からの行動なので、とりあえず眠る事に。
翌朝、朝食に出てみると、レストランは赤いシャツの人で盛り上がっており、この週末にムジェロでMotoGPが開催されるだけあって、既に興奮気味。
皆、赤いシャツを着ているので、誰がドゥカティのスタッフで、誰がレース関係者で、何処までがファンなのか判らない。
食事を済ませ、集合の時間になるとそこで初めてドゥカティのスタッフと顔を合わせる事になった。
広報担当のエドワルド・リッチャデッロさんにベロニカ・ヴィアヴアさんが爽やかな笑顔で対応してくれる。
この場で、他国から集まったジャーナリストたちとも顔を合わせる。
早速、ワゴン車に乗り込んでドゥカティ本社へ向かう。ワゴン車の後部座席を対面にし、ジャーナリスト同士向かい合いながらお互いに自己紹介。
クルマが走り出して、ものの5分ほどで小さなゲートをくぐり駐車場に入った。
言われるままに降りれば、既に本社敷地内に入っていた事に気付く。
ゲートをくぐり右手にはスクランブラーの大きな壁画が有り、左側にはドゥカティの社章とも言えるマークが誇らしげに描かれている。
あっけなく本社へ入構、荷物を預けて建屋に入る事に。
ちょっとしたブレイクタイムを挟んでクラウディオ・ドメニカーリCEOからのプレゼンテーションが午前9時30分より開始、午前中が各分野の担当からの技術説明の時間となった。
最新エレクトロニクスへの執念は半導体の製品管理にも及ぶ
各パーツをメインにした進行は様々な角度からマシンを検証する事で、多くの人に満足して貰える製品つくり込みで、各分野においての絶え間ない努力を感じる事となった。
例えば、現在ではスポーツバイクで主流となるコーナーリングABSも、テスト段階初期では到底信頼出来るレベルには無い未知数のデヴァイスであり、エンジニアの技術を信頼してコーナーに突入するテストライダーの想いや、半導体に関しての製品管理に於いては半導体内部に使われている通常表には出ないパーツのシリアルナンバーまでも電子顕微鏡を使い定期的に検証するなど、徹底的な品質管理も行われていたそうだ。
一方では、制御関係に関しては何処までクリエイティブに追求していく事が出来るか?パワーデリバリーのキャラクタ作りの重要性に始まり、コントロールに関してのタイミングや加減等々、基本車体設計とも言えるエンジン、シャーシ、ボディーワークの良さを更に引き出す事が現代に於いてのエレクトロニクスの役目とも言えるのだろう。
以下にドゥカティ社が世界で初めて導入した革新的な技術をお伝えしておこう。
•2008年DTCトラクション・コントロール 1098 R
•2009年LEDヘッドライト ストリートファイター1100
•2010年ライディングモード ムルティストラーダ1200 S
•2011年TFTメーターパネル ディアベル
•2012年エレクトロニック・エンジンブレーキ・マネージメント(EBC) パニガーレ1199
•2012年フルLEDヘッドライト パニガーレ1199
•2021年アダプティブ・クルーズコントロール/ブラインドスポット検出機能 ムルティストラーダV4
•2023年エクステンデッド・シリンダー・ディアクティベーション ムルティストラーダV4ラリー
例えば、これらの取り組みについて、私自身2000年台初頭に、国内メーカーへ提案をした事が有るのだが、尽く却下された。
その理由は……ユーザが間違いを起こすと危険だから……と言う物だった。
スタンダードのフルパワーに対して、レインモードを設定し、多くのお客様に雨天時には必要の無いパワーをセーブするアイデアであったが、メーカーにも様々な理由が有ったのだろう。
一方、ドゥカティはDTC(ドゥカティ・トラクション・コントロール)と言う明確な加速時に機能する制御技術をマーケットに導入した。
フライバイワイヤー登場以前の制御であったため、フロントとリヤのホイール回転数の違いを検知し、点火タイミングの遅角と燃料カットを使う事で、エンジン出力値を下げると言う物だが、現在にも通用する8段階の設定を選べるなど、先進性が話題になった。
加速のみならず、減速時にエンジンブレーキへの取り組みも他社に先駆けて採用、大排気量の強烈なエンジンブレーキからライダーを開放した。
また、LEDランプをいち早く採用する事や、ダッシュボードのフル液晶化に取り組むなど、ハイエンドユーザーへのアプローチも忘れていない。
それらの開発ストーリーを聴くに当たり、ドゥカティと言う企業体に興味を抱かずにはいられない。
社内を回ってみると、エレクトロニクスラボや生産ラインにデザイナーズルーム、様々なオフィスに日本の様なセキュリティーが無い事に気がつく。
仕事に携わっている人々は、其々に赤いワークシャツやドゥカティのロゴの入ったTシャツなどを着て、自由に開かれた雰囲気だ。
あらためて見れば、誰一人として首からIDタグをぶら下げている人がいないことに驚かされる。
レストランやカフェテラスも開放的で、壁の一面には歴代のレーシングマシンの写真や、レジェンドライダーたちの写真が貼られており、如何にレースへの意識が高いかと改めて感じさせられる。
社員数2000名の10%のスタッフががMotoGPやWSB、各国の選手権に対応しているとの事。
僅か200名のスタッフで昨年のMotoGPでフランセスコ・バニャイア選手がライダースタイトルを獲得、さらには、コンストラクターズとチームチャンピオンをも獲得、トリプルクランを達成しているのだ。
レース活動は決して大きな収益が出る部門ではあるまい。華々しく描かれたスポンサーロゴは、レース活動のサポートではあるが、全ての活動経費を賄うには程遠いだろう。
しかし、そういった究極のチャレンジから得られるノウハウこそが、その企業体の力を表していると改めて感じさせられた。
本社でのレクチャーに興奮しつつも、社内に有るミュージアムの見学をすれば、ドゥカティーに対してのロイヤリティーは高まるばかりだ。
エントランスには市販車の2024年Modelと昨年のWSBマシンも展示され、嫌が上にもドゥカティのパッションを感じずにはいられない。
本拠地に刻む熱い歴史が全体へのパッションの源流を感じさせる
創世記には電気製品メーカーであったドゥカティも、戦時中の空襲により工場が焼失、それまでの製品が生産出来なくなった中、人々の移動に役立つ物作りを!……と言う意味では日本のホンダと通じる物がある。
そんなところからスタートするミュージアムは、役立つ物作りと、市販車によるレース参戦の歴史のオンパレード。
メーカーとコンシューマの距離をより良い関係とする事を目指している事が伝わる。
モーターサイクルレーシングの名高い名車を観る事で、常に新しい取り組みをしているのが良く伝わって来た。
午後の時間をミュージアムで過ごした我々は、一路宿泊先のホテルに移動となった。
大きなバゲージはクルマで運搬、身軽にマシンにまたがる事に。
用意されたのは、どれも2024イヤーモデル最新型。
ディアベルV4、ムルティストラーダV4、ハイパーモタード、ストリートファイター、スーパースポーツ、スクランブラーにデザートXの各種だ。
ボローニャ本社の市街地を軽く走れば、すぐに山間部へ入って行く。
美しいワイナリーを抜けて走らせるマシンとの時間は感動的だ。
今回用意されたマシンはどれも各セグメントを代表するキャラの濃いマシンばかり。
本社からホテルまでは直線距離では離れていないものの、たっぷりとライディングを楽しませてくれる3時間近いワインディング走行。
その走行の中で、30分毎にマシンを乗り換えて行く。
ちょっと休憩をしてすぐにマシンを乗り換える。
今まで走らせていたマシンと対局するようなマシンに跨り即座にスタートダッシュを決め込む。
各国7名のジャーナリストも大忙し。とは言え、通常だったらタイプ違いのマシンに慣れるにはそれ相当の時間も掛かる訳だが、そん事はお構いなしのハイペースだ。
ところが、ここはドゥカティ・マジックの凄いところで、そんな環境の変化にも直ぐに馴染んでしまうから不思議。
つまり、ドゥカティのマシンが、とても受け入れ易いハンドリングに加え、ユーザビリティーの高いエンジン特性で有る事に改めて気が付かせられる試乗となった。
これは各国からの参加ジャーナリスト一同の、誰もが納得の魅力であった。
翌日は、MotoGPイタリアラウンド開催中のムジェロ・サーキットへ移動、ここでも各試乗車を全員が全てのモデルを乗り継ぎながらの移動を行う。
MotoGP開催とあって、サーキット周辺はバイクだらけ。
その中でもやはり目立つのはレッド=ドゥカティ、フラッシュイエロー=ヴァレンティーノ・ロッシの存在感だろう。
昨年、イタリアンメーカーのドゥカティがイタリア人の手によってチャンピオンを獲得した事は特別であり、集まった地元ファンは全員がドゥカティ・ファンに見えてしまう。
実際には、アプリリアやKTMに加えホンダ&ヤマハファンも多いのだが……。
そして未だ衰える事のないロッシ人気。小さな子どもからご婦人まで、そのキャラクターはレース界のアイドルであり、真のレジェンドなのだ。
パドック内も多くの関係者やファンで賑わっており、本場ヨーロッパならではの盛り上がり。
ただし、実際にはこの人の多さで、MotoGPライダーは自由に歩く事も出来ないのが実情で、人気が有る故の問題にも直面していた。
ドゥカティのピットではミケーレ・ピッロ選手のマシンGP23を見学。
ピッロ選手は現在ドゥカティーのテストライダーで、今回はワイルドカード枠で参戦。
マシン開発でもその実力を発揮し、GPマシンから市販車までも手掛ける才能豊かな選手だ。
ピット前に佇むワークスマシンGP23は圧倒的な存在感で、最新のエアロデヴァイスやハンドル周りに多く装着されたマーブルスイッチに圧倒されるばかり。
Moto-Eマシンを公開、実用化へ導く簡易さも重視
また、今季からドゥカティの電動レーシングマシン「V21L」によるワンメイクレースマシンも、今回ムジェロ・サーキットにて車両紹介が行われた。
Eモビリティ・ディレクターのロベルト・カネー氏からマシンの最新スペックを伺う。
なにより昨年のサーキットタイムを3秒以上も短縮した事に驚かされた。
マシン自体の設計思想も、ドゥカティが長年作り上げて来たエンジンベースに、スイングアームやフロント周り+シャシーをモジュールとして組み上げる事で、生産性の向上を狙っている。
勿論これらのユニット外装には高品質なドライカーボンスキンでフルカバードされており、今すぐにでも量産出来る程の仕上がりだ。
従来エンジンスペースだった場所にはバッテリーユニットが有り、そこにフロントユニットが締結される。
リヤセクションはバッテリーユニットに結合され、別途シートユニットもボルト結合される。
肝心のモーターAssyはスイングアーム下に搭載する事で、マシンのロール方向への運動性を高めつつ、適切なアンチスクワットをも作り出している。
こういったメインフレームを持たない設計は、なにかクラッシュなどが生じた場合、そのモジュールをAssy交換する事で、参戦ライダーへの負担を減らしている訳だ。
「L21V」に関して、一般市販予定は?との質問を投げかけて見たが、カネー氏によると「まだようやく立ち上がったベイビーだ」と言う回答。期待が膨らむばかりだ。
今年から土曜日の夕刻に始まったスプリントレースでは、ドゥカティ・ワークスのバニャイア選手が余裕の優勝。日曜日に行われた決勝でも同じくバニャイア選手が優勝。
それどころか、土曜日のスプリントでは1~5位までドゥカティが上位独占し、日曜日の決勝でも1~4位までをドゥカティが独占した。
同日、ルマンで行われた4輪世界耐久選手権では100年目の記念大会に50年ぶりに参戦したフェラーリが優勝し、月曜の新聞やTVニュースは「FORZARED」の文字で埋め尽くされていた事を報告したい。
今回の取材で感じた事は、ドゥカティと言う組織がチャレンジする力を未だ一切減速させずに突き進んでいる事。
また、新しい取り組みを積極的に取り入れる社風が有る事。
さらに、多くの社員が風通しの良い環境を保持し、コミュニケーションを怠っていない事。
そして何より、ドゥカティで働く人は皆、ドゥカティが大好きだと言う事が周りに十分に伝わっている事だろう。
結果的に、自分が乗りたいマシンを本気で作り込んでくるからこそ、我々ユーザーの心を捉えるマシン作りが成功すると言う事を、ボローニャ本社の人たちと過ごし、感じる事となった。
今後のドゥカティーのニュモデルにも、益々注目だ!