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Q.コーナー出口へ向かってグイグイ加速しなくてもトラクションなのですか?【教えてネモケン143】

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80年代後半に250ccレーサーレプリカを楽しんでいた世代ですが、少し前にリターンしました。そこで気になるのが、最近よく出てくるエンジンの低回転域を使ってトラクション……ということです。以前はエンジンのパワーバンド(もう死語でしょうか)を使って後輪がガッツリ路面に食いついて加速する感じをトラクションだと思っていました。1,000ccに乗ってるいまも強いトラクションがあったほうがいいだろうと6,000回転以上回して頑張ってきたのですが、何か勘違いしているのでは、と思い始めたわけです。しかし低回転域だとスロットルの開け始めのエンジンの反応がワンテンポ遅れてくるし、その後の加速がモヤッとしている感じなのですか、これでいいのでしょうか? これもトラクションなのでしょうか?

A. 一般公道では曲がれるトラクションの範囲内といえば低回転域のみ。但し開け方が丁寧過ぎるとトラクション効果は引き出せません。

レースでも低中速のコーナーではトラコンが介入しない回転域で「曲がれる」を優先します。

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まさにリターンライダーに共通しているテーマですネ。
RIDE HIで何度もトラクションについて取り上げているのも、BIKE GATHERINGでのご質問の多くが同じような内容です。

先ず最新のMotoGPの傾向からお話しましょう。いまや300PSといわれる超パワフルなエンジンは、トラクション・コントロールなしには後輪の空転が避けられません。
ストレートのトップスピード狙いはともかく、難しいのがコーナーでのトラクションです。

何が難しいのかというと、コーナーではタイヤが滑って一気にホイールスピンしたら、バンク中のマシンはひとたまりもなく転倒してしまいますが、トラクション・コントロールの仕組みがこのスピンを検知して、徐々に外へスライドしていく程度に出力を抑えてくれるので転倒には至りません。
いわゆるタイヤのスリップ痕であるブラックマークを路面に残すくらいに調整されます。

ところが、これでは曲がれるチカラを分散させてしまっていることに、優勝争いをするトップライダーは気が付いてしまったのです。
加速していく側も大事ですが、肝心のコーナリング・フォースにタイヤが負けてしまっては、旋回半径は徐々に大きくなるいっぽうです。

そこで皆さん、次回からMotoGPをネット観戦するとき、聞こえてくるエンジンの回転音とシフトアップに注意してみてください。
以前はエンジン回転数まで表示してくれていましたが、さすがにそれだと各チームの機密を開示し過ぎたようで、今は何速なのかと速度にバンク角くらいしか表示してません。

そうなると音質や瞬時のシフトアップ(特殊なシームレス構造なのでまさに瞬時なのですがエンジン回転が変わった音は聞き分けられます)からしか判断できにくいのですが、コーナー進入の直前にシフトダウンしてリーンしていくときのエンジン回転は1万回転を遥かに下回っています。
1万8千回転まで回ろうというエンジンの、半分以下、ヘアピンやシケインのような低速コーナーでは8千回転以下までドロップしています。
つまり皆さんの乗っているスーパースポーツが1万回転近くがピークだとすると、半分の5千回転以下になっているのと同じようなものです。

そして続くコーナーが連続したS字とかだと、何と曲がりながら低い回転のまま矢継ぎ早にシフトアップまで繰り返しています。
つまり曲がれる、もしくは曲がりやすいトラクションのグリップが得られる回転域しか使っていないのです。
わかりやすく言うと、安定して曲がれるように、トラクション・コントロールが介入しない回転域で走っているというワケです。

MotoGPでさえこうなのですから、皆さんの乗られているビッグバイクとなれば、2速や3速の5,000回転以上は曲がれる領域ではありません。

加速を抑えた曲がれるトラクションをうまく利用するワザを身につけましょう。

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でもコーナリング中に3~4千回転でスロットルを開けても、レスポンスにタイムラグはあるし、やんわりとしか加速しない……これでトラクション?と俄に信じ難い気持ちになるのもわかります。
とことがこう感じてしまう方々のほとんどはスロットル開度が足りていません。
しかもそうっと開けたのでは尚のこと、曲がれるグリップを得られるトラクション能力は引きだせてないのです。

先ずは感覚的に馴染むため、直線で低い回転域からスロットル開度を半分くらいまで開けてみてください。
確かに一瞬は鈍いレスポンスですが、すぐにそこそこの加速力が得られる筈です。
さらに開度を増やせば1秒もしないうちに、ダッシュが始まります。
コーナーの出口で最大トルクの6割も出ていれば、タイヤが曲がれるグリップの上限近くになっているに違いありません。

という按配に、最新のエンジンはコンピューター制御の燃料噴射と点火時期制御という仕組みの違いもあって、低回転域のレスポンスの質が昔とは比較にならないほど良くなっています。
忘れてならないのは、最大トルクが得られる回転域よりかなり低い回転域から加速しないと、コーナーでの増速に従って必要になるトルク上昇のカーブに乗れないというコト。

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とくにビッグバイクでは、ご覧のようにトルクの上昇率が曲がるのに最も効率が良い範囲は、かなり低い回転域に限定されます。
いくらピークの回転域をキープして、そこから開けても上昇率が一瞬で終わるようでは何にもなりませんよネ。

低い回転域であれば、安心して曲がれる最新のポテンシャルを、リスクなく楽しめるのですから、乗り方を変えてみる価値大だと思います!

長めのカーブは加速の鈍い低い回転のままシフトアップ、
スピードを抑えながらトラクション効果を長く使う賢い走り方へ変えるのがベスト!

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まずどのくらい低い回転域とスロットル開度との関係が、安心して曲がれるトラクションなのかを知る必要があります。
そこでトラクションを実践しながら馴染んでいくには、手始めに小さな曲がり角やヘアピンなど短い区間で短時間となるシチュエーションで、曲がり終わる寸前にジワッとスロットルを開け、後輪が路面を蹴って曲がるのを実感することからはじめてみましょう。

次に大きなカーブでは、長く曲がり続けている箇所で、加速で1,000rpmほど回転上昇したら、躊躇せず次のギヤへシフトアップ、同じ回転域でのトラクションを繰り返し繋いでいく走り方にチャレンジします。
パワーシフトが装着されているマシンなら、スロットル操作なしにシフトペダルだけでこれが可能なのはいうまでもありません。

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もちろんクラッチ操作が必要な機種でも、ほとんどが常時噛合い式(コンスタントメッシュ)なので、ギヤのバックラッシュを利用したイラストの操作方法が可能で、実はそれほど難しくありません。
ギクシャクしたり、ミッションがガチャッと音を出しても、駆動系は丈夫にできているので気にせず練習してスムーズにショックを誘発しない操作ができるようになってください。

強く加速せず、曲がれるトラクション効果が高い、そして長い旋回でもそれを繋いでいける走り方……ぜひ身につけましょう。
近年のバイクは、そうした使われ方を前提に、エンジン特性から電子制御に至るまで進化しているのです。
これを利用しないのは、もったいないとしか言いようがありませんよネ。

Photos:
DUCATI,藤原 らんか