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なんでヘッドライトは「2眼」がメジャーなの?【ライドナレッジ025】

サーキットの闇を切り裂く2眼ヘッドライト

ヘッドライトは「バイクの顔」としてイメージの重要な部分を占める。現在は様々な形状のヘッドライトが存在するが、とくにフルカウルのスーパースポーツ系では、睨みを効かせる獣や猛禽類の様な「2眼ヘッドライト」が主流だ。近年はライトケースの中に複数の電球やLEDが内蔵される仕様も多く、厳密に言えば4灯や6灯タイプと呼ぶべきかもしれないが、いずれにしても「ふたつ目」がデザインのベースにあるのは間違いない。ちなみに大型カウルのツアラーや、ネイキッド車もストリートファイター系だと2眼ヘッドライトがメジャーだ。
いうまでもなく、まだカウルもついていない昔のバイクは、ほぼ全車がフロントフォークにヘッドライトケースが装着された単眼(1灯)。いったい、いつ頃から2眼がなぜ流行り出したのだろう?

そのヒントは「耐久レース」。ヨーロッパでは古くからロードレースの人気が高かったが、1970年代頃からナナハンなど大型バイクの台頭で耐久レースの人気も高まった。そして24時間耐久レース(ルマンボルドールなど)では夜中も走り続けるため、耐久レーサーにはヘッドライトが装備されるようになった。
じつはサーキットの夜間照明は、想像するより明るくない。そこをレーシングスピードで駆け抜けるのだから、ライトはできるだけ明るい方が良い。とはいえライトを大型化するにも限度があるし、レーサーだから重くなるのは避けたい。そのため以前は遠くまで光が届く航空機の着陸灯(主脚に装備されているライト)をワークスマシンや有力チームが採用していた。こうして明るさと小径で軽量なライトを求めて辿り着いたのが「2眼ヘッドライト」というわけだ。

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2020 Honda CBR600RR

最近のフルカウルのスーパースポーツモデルには猛禽類のような2眼ヘッドライトが採用されることが多い

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1976 Honda RCB1000

ホンダが耐久レースに本格参戦するために開発したワークスマシン。デビュー戦であるヨーロッパ耐久選手権の開幕戦で優勝し、76年シーズンを8戦7勝でメーカー/ライダーチャンピオンを獲得。あまりの強さに「不沈艦」と呼ばれた。ご覧の通りヘッドライトを2個装備する

4ストローク車のレプリカは、耐久レーサーがモチーフ

ヨーロッパで盛り上がる耐久レースは、日本でも1978年から鈴鹿8時間耐久ロードレースが大人気となった。この頃に日本でも空前のバイクブームが巻き起こっていたが、当時は規制によってカウリングの装備が認められなかった関係で、耐久レーサーを標榜する流行りは起きていない。

しかし1982年に規制が緩和され、カウリングが認可されるようになると、先陣切って本格カウルを装着したのが1983年のスズキのRG250Γ。このGPマシンのレプリカに次いでついに1984年、耐久レーサーのレプリカとして2眼ヘッドライトのGSX-Rが発売された。このバイクは1983年のボルドール24時間耐久レースの優勝など大活躍したGS1000Rがモチーフだったのだ。

このGSX-Rを皮切りに、400ccクラスの4ストロークの“レーサーレプリカ”は、こぞって耐久レーサーイメージの2眼ヘッドライトを装着。1985年には大排気量スーパースポーツの祖であるGSX-R750が登場し、ビッグバイクにも2眼ヘッドライトの波が訪れた。そして90年代にはドゥカティ916が異形2眼ヘッドライトを装備し、海外モデルにも2眼が波及。そして丸形ヘッドライトからカウルデザインに溶け込む異形ヘッドライトへと進化して現在へ至っている。

こうした歴史の流れにもあるように、丸形2眼の耐久レーサーイメージはそこそこ期間も長く浸透していたのである種レジェンド感を伴っていることから、カスタムの手法としてまだ見ることができそうなスタイリングでもある。

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1983 SUZUKI GS1000R耐久レーサー

POP吉村がチューニングした市販車GS1000の空冷4気筒エンジンを、各断面アルミパイプのダブルクレードルフレームに搭載したワークスマシン。1983年はボルドール24時間耐久レースや鈴鹿8時間耐久レースでも優勝

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1987 Honda VFR750R

当時F750世界選手権(後のスーパーバイク)で圧勝したワークスマシンRVF750のレプリカとして、レースのホモロゲーション(市販車として公認)を兼ねて開発、何と148万円と当時は考えられない2倍もする限定車として少数生産された。形式名RC30をそのまま呼ぶマニアが多い。ヘッドライトは当然の2眼

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1984 SUZUKI GSX-R

耐久レーサーGS1000Rをモチーフとした4ストローク400cc4気筒のレーサーレプリカ。アルミフレーム等による乾燥重量152kgは当時としては驚異的に軽量。初期モデルの車名に排気量の400の数字が入らないのは、「排気量を超えた存在」という理由。キャッチコピーは「POWER ENDURANCER」。83年GS1000RのHB(ドイツのタバコ)と同じイエローのカラーにペイントされた限定車も販売された

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1985 SUZUKI GSX-R750

スズキ独自の油冷エンジンを初めて搭載したスーパースポーツ。当時の大型車(750ccクラス)の乾燥重量は総じて220kgほどあったが、GSX-R750は179kgしかなかった。2眼ヘッドライトを装備するフルカウルを纏った姿は、いっそう耐久レーサーに近づいた。キャッチコピーは「HYPER ENDURANCER」