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モノブロックのキャリパーってどこが凄いの?【ライドナレッジ031】

これまでのキャリパーと何が違うのか?

最新スーパースポーツの上位機種が装備する「モノブロック・ブレーキキャリパー」。レース用やカスタムパーツとしても目にする機会が増えたが、従来のブレーキキャリパーと何が違ってドコが凄いのか?
このモノブロックという言葉、ひとつの塊を意味するのだが、従来のキャリパーが分割した左右のパーツを合わせてボルトで締めつけた、いわゆる2ピースだったのに対し、分割していない一体型が開発されたのでついた呼び名だ。そこでまず従来の2ピースとモノブロックの関係を説明するため、ブレーキキャリパーについて少しおさらいしておこう。
バイクのブレーキは、現在はABS(アンチロックブレーキシステム)の装備が義務化されたので、仕組みから少し残っていた昔からのドラムブレーキは姿を消し、すべてディスクブレーキで油圧による操作となっている。この油圧式ディスクブレーキ、その名の通り油圧の力でキャリパーのピストンがブレーキパッドを押しつけて、ブレーキのディスクローターをギュ~ッと挟み込み、摩擦力でブレーキが効く構造だ。
このディスクローターを制動するブレーキキャリパーには、小排気量が中心のフローティングキャリパー(片押し式、スライド式と呼ぶこともある)もあるが、パフォーマンスが高くスピードも出るスポーツバイクは対向ピストン方式がほとんど。
その呼び名の違いのまま、対向ピストン方式のキャリパーは、ブレーキローターを挟んだ内側にブレーキパッドを押すピストンが向かい合って(対向)配置され、ブレーキをかけるとディスクを両側から挟み込む構造になっている。
そして本題のモノブロックキャリパーだが、じつはこれ対向キャリパーのバリエーションのひとつで、ピストンやパッドが動く仕組み自体は変わらない。何が違うのかというと、キャリパー本体がひとつの部品(モノブロック)で作られているため、キャリパーがディスクを押し付けるとき、どんなに強くかけても、つまりどんなに高圧でもその反力にビクともしない高剛性、とてつもなく頑丈にできているのだ。

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モノブロックキャリパー

継ぎ目が無く、パーツを連結するボルトも存在しない一体構造。既存の2ピースキャリパーと差別化するためモノブロックと呼ばれる

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既存の対向ピストンキャリパー

よく見るとキャリパーの中心に、左右2ピースであるのがわかる分割線がある。またキャリパーの裏側に、表側と連結するためのボルトも見える(このキャリパーは4本)。モナカのようにふたつのパーツを貼り合わせているので“2ピース”と呼ばれる。写真は最新4ピストンのラジアルマウントキャリパーだが、バイクに油圧ディスクブレーキが採用され始めた1970年代初頭から、対抗ピストンキャリパーの基本的な構造や製造方法は変わっていない

ハードブレーキングでもキャリパーが広がらない、変形しない!

ブレーキキャリパーに、どうしてそこまで高剛性が必要かというと、ブレーキをかけたとき対向ピストンキャリパーはディスクを挟み込む油圧の反力で、キャリパー本体が広がろうとする。もし広がってしまえば、その分パッドを押す力が逃げてしまうため、制動力も減少してしまう。
そこで左右に分割した2つの部品をボルトで結合するより、一体構造にすることで剛性が高くなり、キャリパーの広がりや変形を抑えることができる。これがモノブロックキャリパーが登場した理由だ。
……とはいえ、2ピースキャリパーは剛性不足で制動力が乏しいのかというと、そんなコトはない。MotoGPやSBKレースの300km/hからのフルブレーキングはともかく、公道はもちろんサーキットのスポーツ走行でハードなブレーキングを行ったところで、モノブロックと制動力の差を感じることはまずないだろう。しかしモノブロックの剛性の高さは、ブレーキ効力が立ち上がる時のタッチや、ブレーキを緩めて行くリリース時のフィーリングに優れ、ライダーのデリケートな感性に合う。だから繊細なブレーキ操作を行ったときに、高いコントロール性を発揮できるので、より強いブレーキングでも余裕が得られるというわけだ。

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モノブロックキャリパーは、つくるのが難しい!

それではなぜ最初からモノブロックにしなかったかというと、以前だとピストンの穴加工や油圧経路を内蔵させる加工が困難を極めていたからだ。
キャリパーの内側のピストンが収まる穴(ホール)は高い油圧がかかるだけでなく、制動時の応力や熱も加わるため、当然ながら切削する素材も厳選され、かなり精密に加工する必要がある。モナカのように合わせる2ピースなら、組み合わせる前にそれぞれのパーツをオープンな状態から削って加工すれば良いが、モノブロックだとはそうはいかない。ディスクを挟む狭い隙間から、切削機械に回転軸の方向を変換する特殊なアングルヘッドを用いて加工する必要があるからだ。最近でこそコンピューター制御で複雑で繊細な加工技術が進化したため、そうした最新の切削機械で大量はムリだがそこそこの生産量が可能になり、モノブロックキャリパーを標準装備する市販バイクも増えてきた。ちょっと前までは製造できる数量も限られ、本モノのレーシングマシン専用が相場で、いま高価とはいえ市販車へ標準装備される何とも贅沢な時代を迎えたことに、昔からのファンは驚きを隠せないに違いない。

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