発進ですぐ感じるトルクで加速する頼もしさ、乗りやすさが刺激のなさに繋がらない躍動感でスポーツする気分に
超ロングセラーで個性派の代表選手だった、空冷のヤマハSRが惜しまれつつ生産を終了。
ところがその対岸で、ホンダが新規で350ccの空冷シングルスポーツを開発とくれば、ファンの心は伝説のSRと比べてどうなのか、その一点へ集中するに違いない。
という方々に肩透かしを喰わせるようで申し訳ないが、この2台は開発された時期と技術的に可能な領域がまったく異なるので、ココではその比較論には触れないでおく。
我が小川編集長がSRエンスーなので、そちらの価値観で語れば色々あるに違いない。
というのも、GB350のローギヤでアイドリングのままクラッチをミートさせてもスルスルと走り出そうとするマナーから、半クラをミスるとエンストしかねないSRとはまったく異なるからだ。
もちろんビッグバイクのように、アイドリングのままクラッチを繋げるほど低速トルクがあるワケではない。クラッチをミートしかかったら、スルスルと動き出しそうなタイミングで、逃さずスロットルを開けると意外なほどスムーズに早々と加速の波に乗ってくれる。
この滅多なことではエンストしそうもない安心感は、ビギナーはもちろん、たまの週末にしか乗れないライダーには、身構える必要のない身近さとして何よりの存在となるだろう。
で、アピールしておきたいのが、このクラッチミート1秒後からはじまる独得なパフォーマンス感だ。
ローギヤの発進で感じさせた全体にハイギヤードな特性……すぐにエンジン回転が上昇して次のギヤへシフトアップを急かされる感じがない。いまどき珍しい感覚に、もしやと思い2速も3速も4速でも引っ張ってみると、いわゆるシングルスポーツにありがちな、コーナーで使える有効な力強いトラクションの回転域がアタマ打ちになる狭さがない。グ~ンとワイドに後輪が路面を強く蹴っている「オイシイ」領域が続くのだ。
こんなエンジン、久しぶりとばかりにアップダウンの続くコーナーを貪り出した。
リーンから後輪へムチを入れ、グイグイと旋回する状態へ上半身をイン側へあずけ、シートへ加速Gを思いきりあずける。
スペック表示は20ps……とは到底思えない力強さ。どうせ大したことないだろうとタカをくくっていたあなた、これは事件に近い衝撃のデビューかも。
19インチのやや前輪が遅れて追従する、安定感からコーナリングがはじまるトラディショナルなハンドリングも、セオリーを守っていれば破綻しない心地よさ。5速しかない、コーナリングのトラクションで、フツーはそこにストレスを感じるのに、GB350はまだ3速ホールドでもかなりのアベレージでグイグイ曲がる。
ハイギヤードと独得なエンジン特性との組み合わせ、他ではなかなか味わえない世界に感銘しきりだった。
バランサーやオフセットコンロッド、不要な振動を消してパルシブな鼓動感を強調するエンジンの楽しみ方
パパパパッ、パルルルッ、乾いた破裂音のエキゾーストノート、感じる鼓動感も魅力を伝えてくる
エンジンを始動して、まずニンマリとするのが耳障りの良いエキゾーストノート。乾いた弾ける系で、気の抜けたサウンドが多いなか、のっけから期待感が高まる音質だ。
エキゾーストノートにもこだわりがつまる。最後の最後まで調整し、型が完成したあとに水抜き穴の径を変更したそうだ
そしてすでに触れた発進直後から引き出せる、パルシブで力強いトルキーなトラクション。正直350ccしかない!のだから、高望みしないほうが……と思っていただけに、そのインパクトは並大抵ではない。
もっと驚いたのが、たった6,000rpmでアタマ打ちのレブカットが入る、回らないエンジンという別世界。
しかし、そういったベースの考え方を変えていかないと得られない面白さを、GB350は確かに具現化しているのだ。
それはエンジンの構成からして違う次元のバランサーやオフセットコンロッドなど、いまの時代だからこその手法から引き出せているポテンシャルであるのは間違いない。回しているのにトラクションがドロップせず、幅広い回転域で路面を蹴る力量……スポーツバイクの醍醐味の70%はそこにあるといわんばかりに走る。
そこまで走らせると、この排気量ではあり得ないハイギヤード設定に、何をそもそも狙っていたかが透けてくると、つくり手が如何にバイク好きかが伝わってくる。
出力特性イメージ
まずはスポーツバイクに親しむのが大事、しかしもっと重要なのがさらに乗る楽しさにハマる次のページをめくる魅力の深さ
GB350は生まれたインド市場の事情から、350ccと日本の400ccカテゴリーより排気量も少ない。スペック的にはそこですでに期待できないと思わせがちだ。
しかし現実は熱く走りたいライダーの心に火をつける、楽しむためのポテンシャルをたっぷりと内包したスポーツマインドの塊だった。
前輪19インチと後輪18インチの’60年代サイズに、どこがスポーツ?と疑いをもつのもムリはないが、的確なアライメントで設定された車体や足周りが演じる、やや前輪追従にラグのある落ち着いたバランスが相当なペースでも崩れない安定感で、攻める面白さで大型バイクに迫る本格派に位置するハンドリングだ。
不満をいえばピンスライドの片押しキャリパーが、対向ピストン並みのセルフサーボ効果を期待できない残念さがあるくらいで、基本機能で不足に感じる面はないに近い。
ということで、ファーストインプレッションから得た評価として、いかにもスポーツバイクには、不安や怖がりで自信がない、でも色々なトコロへ走りに行きたいと考えてる方にお薦めだ。
ビギナーはもちろん、リターンでまずは自信がない、などと思われている向きにも相性が良いはず。乗れば乗るほど、どう操れば確実で安心できる躍動感が味わえるかを、自然に導いてくれる善き教科書たるを演じてくれるに違いない。
ココまで思いきり次元の異なる、スポーツバイクの醍醐味をキャリアが浅くても感じられるよう組み立てられるホンダ・エンジニアリングの懐の深さ……静かなるバイクブームでファンが増えつつあるいまに相応しいムーブメントだと思う。
SPEC
- 最大トルク
- 29Nm/3,000rpm
- 変速機
- 5速
- フレーム
- セミダブルクレードル
- 車両重量
- 180kg
- タイヤサイズ
- F=100/90-19 R=130/70-18
- 全長/全幅/全高
- 2,180/800/1,105mm