
1991年、ヤマハはXJ400S Diversionを発表した。スーパースポーツではなくネイキッドスポーツでもない、カテゴリーに縛られないフツーの乗りやすい400の4気筒スポーツ……地味なコンセプトだが、ヤマハに脈々と流れるツーリングの実用性を大切にするフィロソフィが貫かれていた。
しかし言い換えれば特徴のないスポーツということになり、前傾35°で敢えて2バルブの空冷Newエンジにもかかわらず、とくに注目されることないまま短命で終わってしまった。


しかしヨーロッパではベースを共有化したXJ600が、カウル付きとネイキッドの2モデルがちょうど良いサイズとパワーで一躍人気モデルとなっていたのだ。
そしてこのコンセプトで900ccクラスが欲しいということになり、前傾35°の②バルブ空冷4気筒エンジンが新たに開発されることとなった。


1995年にデビューしたXJ900S Diversionは、68.5×60.5mmで892cc、パフォーマンスは65.8kW(89.4PS)/8,250rpm、83.3Nm(8.5kgm)/7,000rpmで、耐久性とメンテナンス性からシャフトドライブ仕様、スチールパイプフレームでも239kgに収め、ホイールベースは1,505mmと高速領域を意識したハンドルング。最高速度は209km/hで0-100km/hは3.9秒だった。


この敢えて空冷2バルブの900cc4気筒は、ヨーロッパのツーリング好きに刺さり、爆発的ではないにせよ多くのファンが購入する流れが定着し、7年間以上も大きな変更を加えることなく売れ続けた。
メーカー純正のタンクバッグからパニアケースまで用意され、ヘビーなハイエンドツーリングバイクに乗らずとも、もっと気軽にタンデムツーリングへと誘うキャンペーンを展開。
ウインドシールドも、上部のスリットがヘルメットの風切り音や、雨天時の視界確保などに功を奏すると好評で、実用性を優先してきたこれまでの経験が見事に活かされていた。



バイクメーカーにとって、中庸なモデルは確かに派手さもなく、なかなか手が出にくいカテゴリーではあるが、キャリアを積んだライダーには自分にとってのメリットを優先する価値観があるはず。ヤマハが信じてきたのは、まさしくそこの共感狙いだったのは間違いない。

