ハイエンドユーザーに向けたスーパーフラッグシップは何と乗りやすく調教済み!

1980年代に入ると、ホンダが切り札としていたV型4気筒は世界のレースで圧倒的な強みを発揮、それまでの主流だった並列(インライン)4気筒を主役の座から引き摺りおろしてしまった。
そうなると、ホンダ・ユーザーに少なくないスーパーフラッグシップを愛でる層にも、それまでのCB1100Rに変わる新たなフラッグシップを用意しなければならない。
1984年にリリースされたVF1000Rは、そうしたターゲットがわかっている製品だけに、レーシーであっても過剰にレーシングマシンに近づけることもしないコンセプトで開発されていた。


このスーパースポーツ仕様のニーズは、いうまでもなくヨーロッパが中心でアメリカも追随するマーケット。
77.0mm×53.6mmのボア×ストロークは998cc、90°の鋏み角でDOHC気筒あたり4バルブをカムギヤトレーンで駆動、122PS/10,500rpmと9.4kgm/8,000rpmを発揮する当時の最高峰パフォーマンスだった。
実は当初CB1100Rと同様、1,000ccの耐久などプロダクションレースでンベースマシンとなる前提もあったが、排気量上限が750ccまで引き下げられてしまい、いわゆるスーパーカー的な位置づけとなった。
とはいえ、フォルムはV4ワークスマシンのRS850Rをそのままトレースしたデザイン。クラッチにレース専用パーツとイメージされていた、強いエンジンブレーキで後輪が跳ねないスリッパー機構が組み込まれるなど、最新装備を満載したその価格は関税措置も加わってモーレツに高価だった。



ところでCB1100Rをはじめ、最高峰のパフォーマンスを発揮するフラッグシップのスーパースポーツは、主に高速域の安定性を担保するため足回りがガチガチの、乗り味としては頑固なハンドリングとなるのが相場だった。
ところがVF1000Rは、全体にしなやかな動きで軽快かつ馴染みやすいハンドリングに調教されていたのだ。
これにはホンダファンも大喜び。通常のアうーパースポーツの倍近い高価なスペシャルマシンであるにもかかわらず、予想を超えたファンが所有することとなった。



ベースの998ccV4を搭載するVF1000Fと、1985年にVF1000F-IIとなったツーリングスポーツとは、明確に一線を画した贅沢なハンドリングで知る人ぞ知るで、ホンダファンにはこの時期の垂涎のマシンとなっていたのだ。
ただその後にV4はよりツーリングスポーツとしてのカテゴリーで磨かれていったのはご存じの通り。
快適でどこからでもトルキーなダッシュが呼びだせるメリットは、ツーリングの強い味方となってその後にVFRとしてロングランモデルに繋いでゆくことになった。