カワサキには1924年創業のメグロ(目黒製作所)を1964年に吸収合併した歴史がある。
その合併後にメグロから引き継いだ500ccOHV2気筒のK1をK2へ改良、それをベースに1966年の624ccとなったW1やW1SにW1SAと、Zシリーズがリリースされるまで大型クラスをカバーしていた。
それから30年が経とうという頃、ハイパフォーマンスなスーパースポーツだけでなく、トラディショナルなバイクにも人気が出たのを踏まえ、カワサキでもそうしたカテゴリーで新機種の検討がはじまった。
ところがすぐには製品化されず、何と4年もの歳月をかけることとなったのだ。
先ずノスタルジーを追いかけ、名車とはいえW1を復活させたイメージとはしないことを前提とした。
あくまで新しい時代の価値観から生まれたトラディショナルなバイク……。
W1と同じ英国調のバーチカル(シリンダーが直立している意味)ツインと決めたものの、旧式のOHVではなくOHCによるバルブ駆動となると、一般的なチェーン駆動を採用するとエンジン中央にカムチェーンが通る膨らみができてしまう。
これがどこにでもある2気筒のカタチとなるのを嫌い、趣味性の高いこだわりを求めたのだ。
検討の結果、何とベベルギヤ駆動のSOHCを採用することとなった。
こうすることで、シリンダーの2気筒間には何も介在しないので超スリム。
そしてシリンダー右外側に、クランクシャフトの回転を90°方向変換して縦方向で駆動するカム駆動シャフトのトンネルとなるパイプがそびえ立ち、シリンダーヘットで再度90°方向転換してカムシャフトを駆動するベベルギヤのカバーが目を引く。
このカムシャフトのベベル駆動、レースでも使われるギヤトレーンの一種で、チェーン駆動より駆動に遊びがない正確なタイミングがとれる高度なメカニズム。
バックラッシュを限りなく小さくできるとはいえ、このヘリカルギヤ(90°方向転換する傘歯車のギヤ面が平歯ではなく斜めらせん状の接合面を長くとれる複雑高度な形式)の接合部には超緻密な加工技術が必要となる。
後輪をシャフト駆動する場合の90°方向転換する傘歯車のヘリカルギヤは、どの機械でも加工が可能だが、このカムギヤ用となるとドイツにふたつの加工機械メーカーしかない。
これをたった1機種のために購入するのは、常識では考えられないリスク。しかも年間3,000台分ほどしか加工できず、元をとるのに10年かかるというのだ。
しかしカワサキは、トラディショナルに本気を出すのなら、それくらいの未経験領域へのチャレンジはあったほうがイイと英断を下した。
1999年の発表時、とにかく10年はつくり続ける覚悟!と宣言していたのが印象的だった。
ということで、72mm×83mmのロングストローク675ccで360°クランク、1軸バランサーをクランク前方で駆動、48PS/6,5000rpmと5.5kgm/5,000rpmの中速域重視の特性だ。
フレームはダブルクレードルで、前輪19インチに後輪18インチと、街中やワインディングでも速度の低いヘアピンでも安定性が高いハンドリングとしている。車重は乾燥で211kgでホイールベース設定1,465mmと相俟って、落ち着いた走りに中速域の立ち上がり加速でキビキビした感じを味わえるキャラクターにまとめられていた。
2006年にはW650のエンジン・ストロークのみ縮小したW400も誕生、2009年のW650ファイナルまで併売さえていた。
そしてご存じ2011年に、2年のブランクを経て排気量を773ccへアップしたW800が登場して現在も継続生産中。
またメグロ・ブランドのモデルもリリースされ、トラディショナル好きなファンには唯一の機種として安定したニーズをいまもキープしている。