「F3 675」の軽やかさと、「F4」の力強さを併せ持つ万能スーパースポーツとして誕生したのが「F3 800」だ。デビュー以来、熟成を重ねてきた最新モデルを紹介しよう。
1999年、750ccの並列4気筒エンジンを持つ「F4 Serie Oro」が発表され、MVアグスタの復活が本格化した。「Serie Oro(セリエオロ)」とは「ゴールドシリーズ」を意味し、つまり極めて嗜好性の高い存在だった。
事実、このモデルの生産は限定300台に留まり、瞬く間にオーダーが殺到した。その後、量産バージョンの「F4 750S」の生産が始まり、2005年には排気量が1,000ccに拡大された「F4 1000S」が登場。その間、ネイキッドのブルターレシリーズもラインナップに加わり、新生MVアグスタの地盤が固められていったのである。
そんな中、2010年に大きな転機が訪れた。それが新世代のプレミアモデル「F3 675 Serie Oro」(世界限定200台)の披露である。
このモデル最大のトピックは、エンジンだ。世界グランプリ黄金期を想起させる並列3気筒をゼロから開発し、それを鋼管トレリスフレームに懸架。それでいて逆回転クランクシャフトを採用するという先進性もあり、大きな注目を集めることになった。
その後はF4 Serie Oroの成功をなぞるように、量産バージョン、ネイキッドバージョンと多種多様な派生モデルが追加されてきた。今や3気筒モデルがMVアグスタの主軸になっていると言ってもよく、大きく分けて5つのファミリー(F3/スーパーベローチェ/ブルターレ/ドラックスター/ツーリズモベローチェ)、細かく見れば18機種ものモデルに搭載(2021年3月現在)。スーパースポーツからツアラーまで幅広くカバーしている。
F3 675(2020)
F4 RC(2019)(4気筒)
TURISMO VELOCE 800
Superveloce 800
きめ細やかな改良を積み重ねて
ここで紹介する「F3 800」は、3気筒モデルの象徴的な存在だ。日本へ最初に導入されたのは2013年秋のことで、F3 675の俊敏性とF4 1000の高揚感を兼ね備えたモデルとして開発された。車名の数値が示す通り、排気量はストロークアップによって800cc(精確には798cc)まで拡大。最高出力は675の128hpに対し、148hpまで向上していた。
最高出力自体は、その頃も今も変化はない。しかしながら、エンジンの内部パーツ、電子デバイス、カウル形状、環境規制への適合……といった大小さまざまなアップデートがモデルイヤー毎に繰り返され、現在に至る。その洗練具合は、vol.2にてお届けする予定だが、現在導入されている最新バージョンの仕様を紹介しよう。
F3 800(2020)
2010年に発表されたF3 675以来、デザインはほとんど変わることなく、F3 800にも踏襲されている。つまり、10年以上が経過しているわけだが、ミドルスーパースポーツの中、その流麗さにおいてこれを超えるモデルは存在しない
解放された本来のパフォーマンス
既述の通り、エンジンは水冷の並列3気筒だ。79mmのボアは、F3 675とも並列4気筒のF4シリーズとも共通で、ストロークが54.3mmに設定されている。ショートストロークと言って差し支えなく、148hpの最高出力を13,000rpmで発揮する高回転ユニットだ。
逆回転クランクシャフトは、そのパワーをロスなく路面へ伝えるために採用された。名称の通り、クランクが前向き(=進行方向)ではなく、後ろ向きに回転する機構のことをいい、MotoGPマシンを筆頭とする超高出力マシンの多くが採用している。
これにはウィリーの抑制、減速時の安定性向上、ジャイロの低減といったメリットがあり、市販車への採用はかなり早い。MVアグスタの先見性を物語る部分のひとつだ。
電子デバイスは比較的オーソドックスなもので、エンジンマップに4パターン(ノーマル/スポーツ/レイン/カスタム)、トラクションコントロールには8段階の調整幅がある。2020年モデルからはオートシフターもアップグレードされ、それぞれの制御は年々緻密なものになっている。
エンジンモードの切り替えは、エンジン始動中にセルボタンを押して行う。液晶ディスプレイには、選択したモードの他、トラクションコントロールとABSの介入度が常時表示されている
日本のファンにとってなにより嬉しいのは、大きなアイデンティティでもあった3本出しマフラーのスタイルを、そのまま楽しめるようになったことだろう。というのも、少し前まで日本独自の法規制へ対応させる必要があった。結果的に無粋な1本出しマフラーが装着され、さらには回転数も大きく引き下げられるなど、魅力は半減どころではなかったからだ。
燃料タンクの容量は16.5リットル。上面はエッジが効いている一方、ニーグリップ部分は大きく絞り込まれ、一部をシート下まで延長。レーシングマシンさながらの造形が与えられている
しかしながら、欧州の規制との統一化が図られた今、イタリア本国仕様と同じ、いわゆるフルスペックで乗れるようになった。Vol.2では、軽量スリムな車体と快活なエンジンがもたらすハンドリングをお届けしよう。
SPEC
- 最大トルク
- 88Nm 8.97kgm/10,600rpm
- 変速機
- 6速
- フレーム
- スチールトレリス
- 乾燥重量
- 173kg
- タイヤサイズ
- F=120/70-17 R=180/55-17
- 全長/全幅
- 2,030/730mm
- 燃料タンク容量
- 16.5L
- 価格
- 222万2,000円