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このバイクに注目
MV AGUSTA
BRUTALE 800 ROSSO

【MVアグスタ ブルターレ800ロッソ インプレ Vol.2】専用スペックがもたらす、深くて広い懐

Photos:
長谷川 徹

MVアグスタの主力ユニットに成長したエンジンが逆回転クランクシャフトの3気筒だ。その妙味を最も手軽に堪能できるスポーツネイキッド「ブルターレ800ロッソ」のフィーリングをお届けしよう。

ブルターレ800ロッソ(以下、ロッソ)のリヤ周りはあまりにシンプルだ。車体の左後方から近づいた時は3本出しマフラーも視界に入らないため、造形はシンプルそのもの。250ccクラスのバイクにまたがるような気持ちでシートに腰を下ろすことができる。

ただし、ライディングポジションは思いのほか好戦的だ。アップハンドルにもかかわらず、上体は起こすよりも、やや前のめりな姿勢を取った方がしっくりとくる。印象としてはストリートファイターのそれに近く、ペースを上げれば上げるほど、メーターディスプレイとヘルメットの距離が接近。荷重を逃がさないよう、無意識のうちにフロントタイヤを押さえつけようとしている自分に気づく。

つくづくイタリアンバイクであり、MVアグスタだな、と思う。同ブランドのヒエラルキーの中ではエントリーモデルの位置にあるが、だからと言ってパーシャルスロットルでゆるゆると流すような走りをよしとしない。サウンドもレスポンスも刺激に満ちたもので、つい右手を解放。開けられるところは全部開けていきたくなる。

そうしたくなる、あるいはできてしまうのは、ロッソに与えられた110hpの最高出力に因るところが大きい。ブルターレ800RRの140hpならためらわれる場面でも、ロッソのそれならギリギリ、自身のスキルで引き出せるからだ。

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シート下に設けられた空間と、立ち落とされたようなリヤ周りがデザイン上の特徴。車体色は、アゴレッド/メタリックカーボンブラック(=ROSSO)の1色のみの設定で、価格は189万2000円に抑えられている

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シート高は830mm。座面と側面で異なる表皮が用いられ、質感に優れる。タンデムシートの面積は必要最小限だ

これ以上でも以下でもない絶妙なパワー

一般的に、扱いきれるパワーとそうでないパワーの分水嶺は100hpあたりだと言われる。素の状態で楽しめる限界点でもあるわけだが、そこに10hp加え、必要最小限の電子デバイスでセーフティネットを張っているのが、ロッソである。

この落としどころが上手い。エントリーユーザーに向けて割り切り、出力をもっと落とすことは簡単だが、それでは少々物足りなさを覚えるユーザーもいるだろう。そうした層をフォローするため、エンジンモードには「RACE」という選択肢を用意し、これによってシャープなパワーカーブを実現。逆にビギナーは穏やかな「RAIN」からキャリアを積み、「SPORT」へ移行するといい。

しかしながら本当に絶妙なのは、vol.1で触れた通り、低中回転域のトルクを重視した味つけが施されているところだ。以前、インプレッションをお届けした「F3 800」と比較すると顕著なのだが、F3が88Nmの最大トルクを10,600rpmで発揮するのに対し、ロッソは83Nm/7,600rpmを公称。つまり、3,000rpmも低く設定されているのだ。

ストリートやワインディングのみならず、ロングストレートを持たないサーキットでも、これが有利に働く。なぜなら、回転数がかなり落ちたところからでもスロットルひとつで、すぐさま加速態勢へ移行。走行ラインやギヤの選択に捉われるなくとも、鋭いダッシュをみせる。

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MVアグスタの3気筒エンジン全車に共通する逆回転クランクシャフトを採用し、走行中のスタビリティが向上している。エキゾーストパイプにはバイパスが設けられ、トルクフルな特性を得ている

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ブレーキはφ320mmのディスクとブレンボの4ピストンラジアルマウントキャリパーを組み合わせる。フロントフォークはマルゾッキのφ43mm倒立フォークで、右側でリバウンド、左側でコンプレッションの減衰力調整ができる左右独立式

日常にMVアグスタを

実際、F3 800が高いコーナリングスピードを維持した時にポテンシャルを発揮する一方、ロッソは明確に立ち上がり重視の特性だ。軽やかなハンドリングに任せてクルリと旋回し、出口が見えたらスロットルを即全開。コーナーがタイトになればなるほど、広いトルクバンドが有利に働き、F3 800を引き離すことも難しくない。

車体をクリッピングポイントに向かってリーンさせる時も、起こす時も抵抗感はまったくなく、バンク角のコントロールは思いのままだ。冒頭で記した通り、ライダーは上体をコントロールしながら接地感の確保にだけ注力すればよく、走行ラインはいかようにも選べる。

低中回転の実用と高回転の刺激を自由に行き来することができるロッソの懐は、広くて深い。ライドバイワイヤで制御されるスロットルは極めて軽く、それによってエンジンが敏感に反応する領域があるものの、挙動を乱すほどではない。むしろスポーツバイクならではの緊張感をくすぐるもので、ほどよいスパイスになっている。

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アルミ鋳造の片持ち式スイングアームには、ナンバープレートのホルダーが締結されている。標準装着タイヤは、ピレリのディアブロ・ロッソⅢ

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リヤサスペンションにはザックスのボトムリンク式モノショックを採用。プリロードと減衰力(リバウンド/コンプレッション)の変更ができるフルアジャスタブルだ

MVアグスタというブランドには、ここぞというシチュエーションで登場させる真打感があるものだが、このモデルには高い万能性がある。日常的に乗れて、なおかつ華やかさも忘れたくないライダーにとって、ロッソは魅力的な選択になるはずだ。

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SPEC

Specifications
MV AGUSTA BRUTALE 800 ROSSO
エンジン
水冷4ストローク DOHC 4バルブ 並列3気筒
総排気量
798cc
ボア×ストローク
79×54.3mm
圧縮比
12.3対1
最高出力
81kW (110hp)/11,500rpm
最大トルク
83Nm (8.46kgm)/7,600rpm
変速機
6速
フレーム
スチールトレリス
乾燥重量
175kg
ブレーキ
F=φ320mmダブル R=φ220mm
タイヤサイズ
F=120/70-17 R=180/55-17
全長/全幅
2,045/875mm
軸間距離
1,400mm
シート高
830mm
燃料タンク容量
16.5L
価格
242万円~
協力/ MVアグスタジャパン