アグレッシブなストリートファイターとして生み出されたモデルが「ブルターレ」シリーズだが、そこらから派生し、より過激なスタイリングを与えられたのが「ドラッグスター」シリーズだ。ここでは最もベーシックな「ドラッグスター800ロッソ」の詳細を見ていこう。
MVアグスタの数あるラインナップの内、異端の存在が「ドラッグスター」シリーズだ。初代モデルは2015年に導入され、当時は「ブルターレ800ドラッグスター」と呼ばれていた。
つまり、ブルターレから派生したメーカーカスタムだったわけだが、後に独立したポジショニングを構築。現在はブルターレの名が外れ、ドラッグスター800RC SCS/RC/RRピレリ/RRアメリカ/RR SCS/RR/ロッソという7機種ものグレードで大きな勢力になっている。今回はその中から「ドラッグスター800ロッソ」を紹介しよう。
イタリア語で「赤」を意味するロッソは、ドラッグスターシリーズのスタンダードモデルとして2020年春から発売が始まった。上位グレードとの大きな違いは3気筒エンジンの仕様で、それらが140hp/12,300rpmの最高出力と8.87kgm/10,100rpmの最大トルクを発揮するのに対し、ロッソは110hp/11,500rpmと8.46kgm/7,600rpmを公称している。
果たしてこれは単なるスペックダウンなのか? そのあたりの印象は、vol.2で述べる予定だが、先んじて記しておくと低中回転域が強化されているところがポイントだ。とりわけ最大トルクの発生回転数は2,500rpmも低く、フレキシブルな出力特性を獲得。3気筒ならではの力強さを、より広い範囲で引き出せるように味つけされている。
2020年4月に日本へ導入された「ドラッグスター800ロッソ」。燃料タンクやサイドシュラウドにMVアグスタのコーポレートカラーであるアゴレッドを配している
MVアグスタの世界がグッと身近に
その他の変更点は少ない。外観上、目立つのはホイールの違いだ。RR系がワイヤースポークホイール、RC系がアルミ鍛造ホイールを装着している一方、ロッソはアルミ鋳造ホールを採用。その足元はオーソドックスな雰囲気に仕立てられている。
また、フロントフォークインナーチューブの表面加工やステアリングダンパーが簡略化されているものの、大まかにはこの程度だ。MVICS(モーター&ビークル・インテグレーテッド・コントロール・システム)と呼ばれる電子制御、シフトアップとダウンに対応するオートシフター、リヤホイールのリフトアップ検知機能を有するABSといったライディングの要となる部分は、その他のグレードと同一である。
にもかかわらず、車体価格はロッソのひとつ上に位置するRRから46万2,000円もダウンした198万円を実現。MVアグスタという至高のブランドをグッと身近なものにしてくれている。
798ccの水冷4ストロークDOHC4バルブ3気筒をスチールトレリスフレームに懸架。110hp/11,500rpmの最高出力と8.46kgm/7,600rpmの最大トルクを発揮する。シフトアップとダウンに対応するEAS(エレクトリックオートシフター)を標準装備
燃料タンク容量は16.5リットル。その上部は左右に大きく張り出し、エッジが効いている一方、ニーグリップ部分は絞り込まれているためホールド性は良好だ。エンド部分のアルミプレートが質感の高さに貢献している
極太タイヤを引き立てるためのデザイン
ドラッグスターのアイデンティティは、なにより好戦的なスタイリングにある。車名にある通り、モチーフになっているのは猛然と加速するドラッグレーサーで、それに見合う200mm幅のワイドタイヤをリヤに装着。この幅はミドルクラスのモデルとしては異例に太く、リッタークラスでも採用しているモデルはそう多くない。
そしてもうひとつの特徴が、リヤタイヤの存在感を強調するように削ぎ落されたシート周りだ。シートレールは必要最小限のパーツで構成され、シートとの間に空洞を確保することで軽快感を演出。その手法はテールライトにも踏襲され、タンデムシートとの間にも大きなくびれが設けられている。
リヤタイヤのサイズアップと極小スペースのシートがもたらす視覚的な効果は、スイングアームが長く見えることだ。ドラッグレーサーは易々とフロントタイヤがリフトしないようにスイングアームを伸ばしたり、ウイリーバーを装着するものだが、ドラッグスターの雰囲気はまさにそれだ。
ワイドなハンドルと、その先に装着されたバーエンドミラーも例外ではなく、フロントタイヤを押さえつけながらダッシュする、加速のカタチを表現している。
アルミ鋳造のシングルサイドスイングアームはブルターレ800ロッソと共通ながら、デザイン上の視覚効果でより長く見える。標準装着タイヤは、ピレリのディアブロロッソⅡ
シート高は845mm。ライダー側とパッセンジャー側の表皮は異なることと座面の狭さ、またタンデムステップが格納式になっていることによってシングルシートに見える。凝ったデザインのLEDテールライトが印象的だ
このように唯一無二の個性を持つドラッグスターだが、その走りもまた好戦的だ。Vol.2では、刺激に満ちたハンドリングをお届けしよう。
SPEC
- Specifications
- MV AGUSTA DRAGSTER 800 ROSSO
- エンジン
- 水冷4ストローク DOHC 4バルブ 並列3気筒
- 総排気量
- 798cc
- ボア×ストローク
- 79.0×54.3mm
- 圧縮比
- 12.3対1
- 最高出力
- 81kW 110hp/11,500rpm
- 最大トルク
- 83Nm 8.46kg・m/7,600rpm
- 変速機
- 6速
- フレーム
- スチールトレリス
- 車両重量
- 168kg
- サスペンション
- F=テレスコピックφ43mm倒立
R=スイングアーム+モノショック - ブレーキ
- F=φ320mm R=φ220mm
- タイヤサイズ
- F=120/70-17 R=200/50-17
- 全長/全幅
- 2,035/935mm
- 軸間距離
- 1,400mm
- シート高
- 845mm
- 燃料タンク容量
- 16.5L
- 価格
- 198万円