ワールドスーパーバイクだけでなく、MotoGPマシンまでを擬似的に体感させてくれるパニガーレV4S。チャレンジングなバイクづくりがドゥカティの真骨頂だ
ドゥカティがMotoGPに参戦を開始したのは2003年。WGPはMotoGPへ、エンジンは2ストロークから4ストロークへ変わる過渡期だった。そしてその技術力をいち早くアピール。デビュー戦の鈴鹿でロリス・カピロッシが3位表彰台を獲得すると、その年の第6戦カタルーニャでカピロッシが初優勝を果たした。
当時からエンジンはV4を採用し、2007年にはケーシー・ストーナーがワールドチャンピオンを獲得。現在までに50勝以上を記録している。
ドゥカティのMotoGPで最も勝ったライダーはケイシー・ストーナー。2007年にはタイトルを獲得。その後、病に悩まされつつもトータルで23勝を記録。ドゥカティMotoGPでは最多勝だ
2018年、ドゥカティ のスーパーバイクシリーズがそんなMotoGPテクノロジーを集約させたV4になった。そんなパニガーレV4Sに初めて乗ったのはスペインのヴァレンシアサーキットだった。この時はただただパワーに本弄された。1本目は加速中に大きく振られて全開にできなかった。214psはやはりそういう異次元の大パワーなのだと思った。
しかし、2年という短いサイクルで大幅なモデルチェンジを果たした2020年モデルのパニガーレV4Sは、デビュー時の印象を根底から覆すフィーリングだった。そのシチュエーションはバーレーンサーキット。ストレートでは毎周299km/hを記録するコースだ。
驚いたのはシャシーと電子制御、そしてエアロダイナミクスを熟成させることで、その有り余るパワーをきちんと路面に伝えていることだ。まるで弾丸のように真っ直ぐ、狙ったところに正確に加速していく。
1,103ccの大排気量エンジンが1万4,500回転(6速は1万5,000回転)までストレスなく回る感覚は、ドゥカティ独自のバルブ開閉機構であるデスモドロミックのおかげ。そのレスポンスはこれまでの常識が当てはまらない。
ドゥカティはMotoGPで唯一バルブ機構にデスモドロミック(他メーカーは圧縮空気でバルブの動きに追従する)を使うメーカーで、もちろんすべての市販車にも投入されている。
また、逆回転クランクもMotoGPですべてのメーカーが採用する機構。エンジン内部の機構は複雑になるし重量もかさむが、それでも採用するメリットが2つある。
ひとつめは、ホイールが発生するジャイロ効果を軽減すること。これはリーンでその排気量を感じさせない軽いハンドリングに貢献。フルブレーキング&シフトダウンをしても前輪に大きな荷重が乗る感覚が少なくなる。
もうひとつはスロットルを開けた際に前輪を押し下げる方向に慣性連動トルクが作用すること。ようはウィリーしにくくなるのだ。
デスモセディチGPと同じ爆発間隔、そしてφ81mmのピストン径を採用しているためそのフィーリングはMotoGPマシにかなり近いはずなのだ。
左がMotoGPマシンに搭載されるデスモセディチGPで、左がパニガーレV4Sに搭載されるデスモセディチストラダーレのエンジン。爆発感覚が同じため、そのフィーリングはかなり近いはず
剛性バランスを追求した、巨大な穴の空いたフレームはパニガーレV4R譲り
フレームはこぶし大の穴が開いていて、剛性バランスが大きく変更された。これがペースをあげなくてもタイヤが温まっていなくてもしなやかな感覚を伝え、前輪の接地感を明確にしてくれる。
バイクから硬さと同時に神経質さが消えている。だから狙ったラインをトレースしやすい。
またこのフレームは4kg以下に抑えられ、軽さとスリムさに貢献。しなやかなハンドリングはサスペンションが見直されているのも大きい。
フレームの側面に大きな穴の空いたフレーム。2018年モデルはこの穴がなく、翌年登場したパニガーレV4Rからご覧の形状になった。SBKではこの穴部分にカーボンを貼ったりしながら剛性バランスをコントロールしているという。重量は4kg以下に仕上がり、とても軽い
ドゥカティ=Lツイン。そんな印象のユーザーはまだまだ多いに違いない。しかし、V4になってもドゥカティらしさが失われることはなく、その魅力は増すばかり。
新しいドゥカティの世界観がここにある。
SPEC
- 最大トルク
- 124Nm(12.6kgf・m)/12,500rpm
- 変速機
- 6速
- フレーム
- アルミフロントフレーム
- 車両重量
- 195kg
- ブレーキ
- F=φ330mmダブル R=φ245mm
- タイヤサイズ
- F=120/70ZR17 R=200/60ZR17
- 軸間距離
- 1,469mm
- シート高
- 835mm
- 燃料タンク容量
- 16L
- 価格
- 344万2,000円