「A New Opera」これはパニガーレV4登場時のキャッチコピーだ。それはSBKエンジンをLツインからV4に変えるというドゥカティの歴史的瞬間をとても美しく表現していた。オペラは演劇と違い歌手が歌唱で舞台を彩るイタリア発祥の文化だ。スロットルを捻りその歌声に魅了された。2020年からドゥカティはストリートファイターV4をオペラの主役に抜擢し、新たな舞台を上演する。
モチーフは映画の「ジョーカー」
2018年ドゥカティはスーパーバイクシリーズのパニガーレのエンジンをLツインからV4に変更。V4エンジンの目の覚めるようなパフォーマンスの数々、そしてそのエキゾーストノートは新しいドゥカティの門出を祝うのにふさわしいものだった。
V4になってドゥカティらしさは一層輝きを増したと言えるだろう。そして、2020年にはそのV4エンジンを搭載したネイキッド“ストリートファイターV4”がデビュー。ネイキッドにMotoGP直系のエンジンを搭載してしまう大胆さは、世界中を驚かせた。この他メーカーにないスピード感がいかにもドゥカティらしい。
「映画ジョーカー」の邪悪さと楽しさをひとつで表現したというスタイリングは、走っても電子制御によってその表情を一変させる。まるで喜怒哀楽の激しいジョーカーそのものだ。ライダーはその性格を把握してコントロール下に置く必要があるのである。
そう聞くと、その車名、SBK直系エンジン、さらにこのスタイリングから思わず身構える方も多いと思う。前作のストリートファイターを知っている方ならなおさら……。しかし心配は無用だ。洗練された電子制御を使えば常に優しくて楽しいジョーカーと付き合えるからだ。あえて狂気を見る必要はない。
ジョーカーのスケッチ
宮城 光さんと編集長の小川で2台のストリートファイターを試乗してみた。「スロットルを開けるとどこに行くかわからない」と宮城さん。「暴れそうになる車体を全身を使って乗りこなしたい」と小川
208psを発揮する1,103ccのV4エンジン。爆発間隔や逆回転クランクなど、ドゥカティのMotoGPマシンであるデスモセディチGPで培った数々の技術を投入する。MotoGPのエンジンフィールを日々体感できるのはドゥカティだけだ。
電子制御で身近なバイクに変えられる
ワインディングではスペックをリスペクト(本当は畏怖)してモードは「ストリート」、さらに3段階ある出力特生をLOWにした。ようはもっとも優しいバイクに仕立てたという訳。するとサスペンションもスロットルレスポンスもソフトで、バイクが身近な存在になる。LOWは115ps。直後に「レース」モードも試したが、スロットルレスポンスが敏感で、サスペンションも一瞬でハードに……明らかに公道向きではないバイクになる。
視界の広がったスーパーバイク
サーキットでは宮城 光さんと2台のストリートファイターを試乗した。後ろを追いていくと宮城さんはブラックマークを残しながら豪快に立ちあがる。
「どこかに飛んでいってしまいそう。加速はシフトアップを繰り返しても、空気抵抗を切り裂き続け、アップハンドルマシンとしては脅威的」と宮城さん。
あれだけ開ければね……スタッフも手を止めてピットからその走りに見入る。スキルがあればストリートファイターはどこまでもアグレッシブに応える。どこまでも、だ。
「オーナーは、この獰猛な出力を押さえ込むスキルと、スロットルを開けたくなる自制心が求められる。ただ一方で予想以上に扱いやすい面もある。これが現代の電子制御技術」と宮城さん。
最初から電子制御に頼ってしまおう!
もちろん僕は宮城さんのようには開けられない。サーキットでもまずは「スポーツ」モードから。慣れてきたら「レース」モードも試すが、サスペンションは柔らかくしたいし、ウィリーコントロールは強めに介入させたくなる。
それでも暴れそうになるフロントを全身で押さえ込む。これはバイクとの格闘だ。208psを発揮するエンジンにネイキッドという常識は通用しない。
トラクションコントロールやウイリーコントロールに100%頼って走る。それでも疲れたら迷わずにモードを下げればいい。好みのバイクに直感的に変更できるのもいい。
「バイクの魅力が何かと聞かれたら、私はエンジンがそれぞれのキャラクターだと答える。このV4エンジンは特に個性的。ストリートファイターはアップハンドルになったことで、MotoGPのフィーリングを日々体感できる。サーキットでパニガーレ譲りの強烈な一面を見せたかと思ったら、何食わぬ顔で市街地にもツーリングにも溶け込む」と宮城さん。
ドゥカティがMotoGPで培ってきた電子制御は、サーキット、市街地、ツーリングで常にライダーに寄り添う。それは軽々と1万4,000回転まで回るのに、3,000〜5,000回転を常用できるV4エンジンのキャラクターによるところが大きい。このエンジンは、今後ドゥカティの新しい指針になるに違いない。
バイプレイン(二翼)と呼ばれるウイングは270km/h時に28kgのダウンフォースを生む
1万4,000rpmまで軽々と回るV4エンジンを最新デバイスで調教。ライディングモードは「ストリート」「スポーツ」「レース」を用意
Sには前後オーリンズ製の電子制御式サスペンションを採用。モードによって減衰力が変化。走行シーンに合わせて車体姿勢も制御
純正のアクラポヴィッチ製サイレンサー。騒音規制を守りながらV4エンジンをさらに魅力的なサウンドに仕立ててくれる。87万6513円
戦闘的な雰囲気の中にイタリアンバイクらしい美しいラインを持つストリートファイター
後ろから宮城さんの走りを観察。立ち上がりで真っ黒いブラックマークをつけていく開けっぷりは圧巻!
SPEC
- フレーム
- アルミフロント
- 車両重量
- 199kg
- ブレーキ
- F=φ330mmダブル R=φ245mm
- タイヤサイズ
- F=120/70ZR17 R=200/60ZR17
- 燃料タンク容量
- 13L
- 価格
- 280万9,000円~