2035年から化石燃料のエンジンは新車販売が禁止となると、もう10年ちょっとしか残されていません。それまでに電動バイクは、いまのエンジンで動くバイク並みに楽しめるところまで進化するのでしょうか?
A.3月25日に欧州連合(EU)は、温暖化ガスを排出しないe-FUEL(合成燃料)を使う場合にかぎり2035年以降も内燃機関の販売を容認する、といった内容でドイツ政府と合意しました。大逆転の様相を呈してきたのですが、まだ楽観できる状況ではありません。
電動化を躊躇なく進めてきた台湾では移行もスムーズ
地球の温暖化への対策が急務で、自動車メーカーの都合で先送りは許さない……そんな勢いが最近さらに強まり、仰るようにあと10年ちょっとでガソリンエンジン付きの販売は禁止という流れになっていました。
そうなると趣味のスポーツバイクにとって、先々は乗ることそのものを奪われるに等しいことになるでしょう。
もちろん地球の温暖化を放置して良いとは思いません。でもどうなってしまうのかという心配は、募るいっぽうですよネ。
さて、温暖化ガスを排出しない乗り物となると現在は電動しかありません。
充電するのに必要な電気を生み出すのに、温暖化を伴う道理はさておいて、というのもどうかと思いますが、自動車メーカーは100パーセント電動化を急ぐ姿勢をみせています。
ただ給油と同じ意味で充電をどうするのかというインフラなど、解決しなければならない問題は山積み。
が、二輪車の世界でこれを急ピッチで解決したのが台湾でした。
バッテリーをカセット交換式にして、ガソリンスタンドはもちろん、コンビニや他の施設にも交換スタンドを設置、基本は2個のバッテリーを積んでいるので、立ち往生などの心配は皆無。
このGogoroというメーカー、2015年からスタートして、政府の後押しもあり瞬く間に浸透しました。
スクーターの使われ方、スロットルの開け方は全閉状態が半分以上、どうかすると時間的に70パーセントも閉めっぱなしという事実をベースに、その間の電力消費を抑えるためにモーターを超小型化、しかも加速の発熱を水冷化でリカバーして125ccより俊足、圧倒的に少ない部品点数にスマホとの連係が前提などあらゆる面で新次元な、実際に使った経験から内燃機関よりイイことづくめでした。
正直、生活道具としてガソリン車不要論側に躊躇なく立てる自分がいます。
電動のスポーツバイクも着実に進化
しかし、趣味のバイク乗りとしての思いとなると、そんな簡単には割り切れません。
とはいえ、電動でも同じように楽しめるバイクの可能性があればこの先も乗り続けたい、そう願わずにはいられません。
そして、そこそこ前からロードレースを電動バイクが走りはじめ、Moto GPと併催されたMoto E でイタリアのエネルジカがワンメイクで2019年から2022年シーズンまでマシンを供与、併行して電動スポーツバイクの市販もスタートしました。
実際に試乗すると、YouTubeやWEB記事でお伝えした通り、呆気なくすべてをこなし、ペースが上がれば相応に緊張する、そのフツーぶりに感心するばかり。
いくらでも「速く」「凶暴」にできるポテンシャルが、スムーズに調教されているあたりが違和感といえるかも知れません。
ただエンジンとどっちがイイか、という問いには答えられません。
もちろんエンジンには100年以上の歴史があり、その深みを較べるのは意味が違います。と同時に、電動の新しさ、その全く違う感性は、新しいモノ好きにはたまらない魅力なのは間違いありません。
スポーツバイクの将来を左右するのはメーカーだけじゃない
ご存じのように、Moto Eは2023年シーズンからドゥカティに引き継がれました。
エンジンメーカーだと、どのように育むのか、色々と興味は尽きません。
しかもこのタイミングで表面化した、e-FUEL(イー・フューエル)の可能性とを考え合せると、他に選択肢がなくすべてをBEV(電動)に集約すると決まっているのと違い、異なるアプローチのひとつとして将来性をはかりながら見守れるのがイイ、そう思います。
ではなぜe-FUELで騒ぐのかというと、基本いまのエンジン構造や燃料の補給インフラがそのまま使えるからです。
エッ、そんなイージーな方法でゼロカーボン化が可能なの?と俄には信じられないでしょう。
もちろんすぐ実用化するには、立ちはだかる壁がいくつもあります。
まず e-FUELとは、合成燃料のひとつです。
合成燃料は大まかにいうと炭水化合物の系統と、水素系化合物とがあり、その製造方法で生物由来のバイオ系、もしくは再生可能エネルギー由来があって、e-FUELにもいくつかのつくり方がある……と、何が具体化を妨げているかの説明に辿りついても、門外漢には判断材料にすらならないので、これは専門家の解説に委ねるしかありません。
でもBEV(電動)しかないように思われていたのと、難易度が高いにしてもエンジンという構造が使えるとなると、将来に対して気持ちから違ってきますよネ。
水素エンジンも燃料電池にしても、まだ時間がかかりそう……それがBEVしか間に合う手段がないという流れに、ドイツがe-FUELで待ったをかけたともいえます。
しかしこれまでがそうだったように、政治や経済に利用されてきたアンフェアな流れは、そろそろ翻弄されるのはゴメンだと思いませんか?
e-FUELの可能性は前から取り沙汰されていたのですが、メーカーの技術開発だけでは、可能性の芽を摘まれてしまうのを目の当たりにしました。
受け身でばかりはいられない、e-FUEL にはそんな「火種」が内包されている気がします。
- Words:
- 根本 健
- Photos:
- Gogoro,RIDE HI 編集部,iStock(Stadtratte)