レプリカブームの終焉で、
新たな模索は都会派シングルスポーツ
1980年代後半、隆盛を極めたレーサーレプリカブームも峠を越え、絶対性能一辺倒のスーパースポーツから、ツーリングをイメージさせるカテゴリーなど、幅広い模索が各メーカーから登場した。
前輪19インチ、後輪16インチで新設計DOHC単気筒250ccのAX-1(1987年)もその1台。
1980年代にBMWのR80GSにはじまった、パリダカール・ラリーのイメージとツーリングスポーツとの融合は、ヤマハではテネレが登場し果ては250の2スト2気筒TDR250へと、非舗装路へ踏み入れる仕様がひとつの流れを生んでいた。
しかしホンダは本格派向けレプリカ、アフリカツインを開発しつつ、250ccクラスには都会派を意識した新カテゴリーの創出というチャレンジへ打って出た。
新設計のエンジンは、水冷DOHCの250cc単気筒で、街中での扱いやすさとレスポンスの良さを意識したチューン。
シリンダーに量産4ストロークでは初の鉄スリーブを使用しないNSシリンダー(アルミシリンダーにいわゆるニカジルコーティング加工)を奢る力の入れようだ。
フレームは鋼板と鋼管を組み合わせた等剛性フレームで、何とマフラーをフレーム構造材の一部に組み入れるなどして、乾燥重量114kg!と驚異の軽さを誇る。
足回りは非舗装路の踏破性を意識した前19インチ後ろ16インチのブロックパターンのタイヤに前220mm後ろ200mmものサス・ストロークを確保、これを21本のアルミキャストホイール(チューブレスタイヤ)へ装着することで都会派イメージを強調するデザイン・コンセプトだ。
時代を反映したポップなカラーリングを纏う
装備のほうも250ccクラスには珍しいアルミダイキャスト製のリヤキャリアや、アジャスタブルなブレーキレバーにジュラルミン製ブレーキペダルなど、これまでより上質なカテゴリーをアプールしている。
エンジン下のアンダーガードも、アルミのいかにもオフロードモデルを意識させないよう、敢えてポリプロピレン製としたのも新しかった。
さらにその車体色も、これまでスポーツバイクには使われてこなかったポップな色合いを採用。
1989年の各部を改良したマイナーチェンジでも、より際立つカラーリングの組み合わせを加えるなど、斬新さをアピールしていた。
サスの設定を硬めに変更し、舗装路やラフな路面での走りをキビキビしたものとするなど、開発サイドは新たなカテゴリー創出に注力を続けていた。
1994年モデルで引き締まった強さを加味
この斬新なチャレンジは、一定の評価を得ながら250ccユーザーにはなかなか響かず、1994年モデルではエキゾーストのバフ仕上げや、フロントフォークのボトムケースを磨きの表面仕上げ、さらにはキャストホイールのリム側面の切削加工など、アーバンな雰囲気を意識したイメージチェンジもはかったが、このマイナーチェンジを最後に継続されることはなかった。
いまにしてみれば、ビッグバイクで流行っているアドベンチャー系と重なる部分の多い構成だ。
いまNewモデルはスクランブラーを標榜するようになっているが、過去のこうした完成度と高いテクノロジーの製品を継承した新たなジャンルの構築のほうが、ツーリングへの楽しみも含めユーザーが夢を育めるように思えるのだが……。