【プレイバックZX-25R】関連記事
左から車体設計の山東雅弥さん、開発リーダーの山本哲路さん、開発ライダーの野崎浩司さん。キャリアを積みチャレンジも旺盛な頼もしい40代の世代で今後が楽しみ!
ビッグバイクからのサイズダウンに適うのか? 開発アプローチから垣間みえる「本気度」
2020年の9月10日に発売となった久しぶりの250cc4気筒スポーツであるニンジャZX-25R。発売から約1年が経過し、若年層からベテランまで、ZX-25Rユーザーの笑顔をよく見る。ピュアな気持ちで楽しめるパッケージは、まさにカワサキの狙い通り。今回は、デビュー当時の開発者インタビューや試乗会の模様を改めて振り返っていこう
9月10日の発売より2カ月以上も前、カワサキはバイクジャーナリストに事前の技術説明会を開催していた。
「なぜ2万回転を可能にしなかったのか?」「もっと軽量コンパクトでクイックなハンドリングを狙わなかったのか?」飛び出す質問は1980〜1990年代の4気筒250との比較ばかりで噛みあわない。
答える側も「もちろん当時の熱さも知っているが、開発したかったのはいまの技術で新しさを生み出すこと」を繰り返す。本音はターゲットが違うと言いたかったのだろうが、試乗してもらえばわかると思っていたのかも知れない。
久しぶりに登場した250cc 4気筒。登場から1年、その人気は衰えることがない。サーキットでもよく見るし、大人が夢中で遊んでいる姿が印象的だ
電子制御をフル装備し、ベテランも唸るスポーツ性を約束
技術説明を聞くと、ボア径をφ50㎜としたのは、単に超高回転化を狙ったショートストローク設定ではなく、中速域やとりわけスロットルのON&OFFでのレスポンスのニュアンスを優先した燃焼室形状からバルブ径が決まったとのこと。250なのに、最新の大排気量ハイパーマシンと同じ方法論で開発されているのだ。
それを反映したひとつがパワーモード。2種類あってローパワーモードだと、出力特性だけでなくスロットルレスポンスを穏やかにして、安心して大きく開けられ配慮はまさに大人向け。
驚くのは、250でトラコンを3段階も設定していること。いちばん介入する③だと濡れた路面で絶対に空転しないに始まり、②でも雨のマンホールを踏んだとき助かるので有り難いはずで、①のもっとも介入しないレベルでも、サーキット走行など限界時のわずかなスリップに対応するという。
そうした言葉だけ聞くと、このクラスくらいトラコンなくてもと思いがちだが、ビッグバイクのスーパースポーツに慣れたキャリアでも、サーキットを攻めれば緊張する領域まで瞬く間だった。
ライディングモードやトラクションコントロールも装備。1万8,000rpmまで回ろうとするエンジンは圧巻。エキゾーストノートに酔いしれる
ビッグバイク顔負けの装備は、ビッグバイクと変わらぬアプローチで挑んだ証拠
超高回転域まで回し切る醍醐味も半端なく高いが、それをグッと下回るコーナリングで使いやすい回転域でのトラクションが、「これで250?」と思うほど力強く、開け閉めしたときのレスポンスは軽量クラスのそれではない。
排気干渉を利用した4本のエキゾースト連結などによって、250だと2気筒のほうが力強い常識を覆し、すべての回転域で上回ったと豪語する。
この大事なスロットルを操る感性が、ワイヤーを介さない電子制御だから可能なのも重要なトピックだ。開けた途端、ライダーが次に「欲しい」を知り尽くした反応だからだ。電子制御を〝人為的〞などと言っている場合ではないほど著しく進化している。
同様に「スリッパークラッチなど、250に必要なの?」はすでに愚問なのがおわかりだろう。もともとエンジンブレーキのバックトルクなど大きくないし、SEではクイックシフターも装備されシフトダウンで空吹かしまで自動でやってのけるから、スリッパークラッチはほぼ使わないといえるのだが、何かの拍子で一瞬でもラフな挙動にならざるを得ないとき、ドキッとさせないクオリティをキープしているというのだ。
つまり、もっと大きな排気量のバイクが買える価格だからこそ、軽量クラスにありがちな安っぽさで大人をスポイルしないよう、250だからこれくらいでイイと妥協せず開発されたからで、まさに日本メーカーの常識を打ち破った快挙といえるだろう。
カウルの隙間から覗くと見える4本のエキパイ。エキゾーストノートに凝っている
走りのクオリティは抜群!
最新の技術で開発された250cc4気筒のレッドゾーンは1万7,000rpmまで。それも30年前の世代のようにただ回っているのではなく、パワー上昇が衰えずキープする快感は、バイク好き全員を魅了するはず。「タコメーターだと1万8,000rpmに針が届くと思いますヨ」と事前に悪魔の囁きを聞いていたので心底楽しめた。
感動はエンジンだけではない。事前の技術説明で耳がダンボになっていた、フロントフォークのSFF‐BPダンパーの効果も間違いなく大きなトピックだ。
フロントフォークは、ある意味ビッグバイクと軽量クラスとの走りのクオリティに決定的な違いを感じさせてしまう象徴だろう。
わかりやすいシーンでいうと、下り坂のヘアピン進入時、大型トラックの制動などで路面に波を打つような上下ギャップがあると、軽量車はフォークの下の部分、前輪のアクスルが前後に震えるような振動をする。フォークが耐えられず上下動で吸収する機能が損なわれている状態だ。
対してビッグバイクは、同じ状況でもライダーを多少は上下に揺するかも知れないが、フロントタイヤはそう容易くズズッと滑りそうにはならない。
最大の原因は、軽量クラスだとフォークがどうしても細くなり、物理的に減衰力を発生するダンパーが簡単な構造にしかできないため。例えばコストを度外視して複雑なダンパーを内蔵するためフォーク径を太くすると、フォーク自体が重くなり、低速で曲がろうとすると必要以上に倒れ込みそうになるなど、セルフステアのような大事な機能が妨げられやすい。
年齢を加えて体力的にもビッグバイクからサイズダウンを考えている方も少なくないと思うが、こうした乗り味やパフォーマンスで「余裕」のない軽量クラスへの移行を躊躇しがちなのも事実。こうした状況をこのZX‐25Rは打破しようとしたのだ。
カワサキではすでにZX‐6Rでこのダンパーが大径ピストン構造のフロントフォークを採用していて、他メーカーでも600クラスでは採用をはじめた例もある。そして実際、このフロントフォークの効果は、はかり知れないほど大きかった。様々なシーンで落ち着いたセルフステアと、フロントタイヤの安定感に絶大なグリップ感は、まさによくできた600クラスの域。サーキットで、かなり攻め込んだハードブレーキからのリリースをきっかけにリーンする連続ワザも、250にありがちなリリースでデリケートなコントロールをしていないと、フロントからスリップダウンしそうな心細さは気配すらない。
フロントフォークは倒立タイプ、リヤはリンク式のモノショック。その配置はZX-10Rにもよく似ている
カワサキから新しい時代が始まろうとしている
いまや中速域も乗りやすいエンジンなど何の特徴にもならない。しかし、その中速域でスロットルコントロールが楽しめる醍醐味とは何なのか、ライダーの信頼を得て曲がれるパフォーマンスを楽しませる要素は何なのか、そのノウハウを頂点のハイパーマシン開発から惜しみなく注ぎ込むカワサキの先進性は圧倒的だ。なぜハイエンドの技術を投入しているのか、そこを共感して同じ土俵に他も参入してくれば、250のクオリティは一気に高まるに違いない。
新しい時代を切り開くことの多いカワサキ。今回も金字塔のひとつとなりそうな気運を感じる。
Ninja ZX-25R
メタリックスパークブラック
Ninja ZX-25R SE KRT EDITION
ライムグリーン×エボニー
Ninja ZX-25R SE
メタリックマットグラフェンスチールグレー×メタリックスパークブラック
2022年モデルはご覧のカラーをラインナップ。どれもカワサキらしい主張が強い
SPEC
- 最大トルク
- 21Nm (2.1kgf・m)/13,000rpm
- 変速機
- 6速
- フレーム形式
- ダイヤモンド
- 車両重量
- 183kg(SE:184kg)
- ブレーキ
- F=φ310mm R=φ220mm
- タイヤサイズ
- F=110/70R17 R=150/60R17
- シート高
- 785mm
- 燃料タンク容量
- 15L
- 価格
- 84万7,000円〜