ハンスムートのネイキッド・コンセプトに騒然……
1986年3月、スズキから異国情緒たっぷりな新型ネイキッドがリリースされた。
IMPULSEと1982年のGSX400FSでネーミングされたネイキッドを表す車名もついた新しいスタイル。
剥き出しになったフレームマウントのヘッドライトステーが、梯子状にデザインされ朱色にペイントされたフレームと連なって見える、異様なルックスに注目が集まった。
デザインはKATANAで一世を風靡した、ドイツのハンスムート作。
フレームとヘッドライトステーの朱色は、鳥居など日本を象徴する朱色にインスパイアされた神社仏閣がベースだったようだが、ムートがイメージを東京の若者や建築に重ねたと発言したことから、朱色のトラスが「東京タワー」と一般的に連想されていた。
このヘッドライトステーを除けば、極端に違和感といえるほどではなかったにもかかわらず、コンサバな感性がメジャーなバイクライダーに、すぐ共感を呼ぶような存在にはなり得なかった。
最新エンジンにシャシーはこのモデル専用設計!
こうした超個性的なデザインだけに目が奪われがちだが、このGSX-400Xは各コンポーネンツがこのバイク専用設計と、高度な技術を投入した贅沢仕様だった。
エンジンは1984年のGSX-Rの経験を活かし1986年モデルで新設計となったSATC(Suzuki Advanced Three-way Coolong System)エンジン。
シリンダーヘッドは水冷、シリンダーは冷却フィンを刻んだ空冷、そしてクランクシャフトやピストンはオイルを噴射する油冷と、3つの冷却システムを組み合わせたスズキの独自性をアピールしていた。
ボア×ストロークは56×40.4mmで398cc。59ps/12,000rpm、3.8kgm/11,000rpmと当時のレプリカそのままで最強。
フレームは角断面で専用にワイドな構成に設計され、リヤサスにはリンクを介してプログレッシブにバネレートが高まるフルフローター・サスペンションと奢った内容が詰め込まれていた。
シート高は745mmとかなり低く設定されたいたのも特徴的だ。
ハーフカウル仕様が意外にも没個性な存在に……
ただ同時にリリースされたGSX-400XSは、同じデザインながらヘッドライトステーをそのままハーフカウルとした仕様で、共通デザインの車体とは思わせないほどフツーのスポーツバイクに見えていたが、その没個性な面がそうさせたのかはわからないが、その存在すら知られていない地味な位置づけ。
ただハーフカウルは流行りのネイキッドとはもちろん別格で、前傾したライポジもあって注目されるカテゴリーではなかった。
あらためて見るとハンスムートの大人を意識させるバランスの良いプロポーションで、東京タワーとは別のタイミングにリリースされていたら、スポーツツーリングモデルとしてファンを獲得できたに違いない。
スズキは自らレーサーレプリカ時代へスポーツバイクを導いた反面、KATANAなどレプリカ路線でない新たなカテゴリーへの挑戦をどこよりも多く手がけていた。
レプリカの勢いが強すぎて、ファンの目がほかへ移行しない時代背景から、人気の新しいカテゴリーは生まれにくかったが、マイノリティでも挑戦を諦めず、徹底して繰り返す姿勢に心惹かれていたファンが徐々に育まれていた時代ともいえる。