「ユーロ5」は欧州の二輪排出ガス規制
環境性能が厳しく管理される昨今、とくに輸入車では「ユーロ5」という文言をバイク関連の媒体で目にする機会が増えてきた。
バイクに詳しくない方でも、なんとなく前後の文脈的に「排出ガスに関わるコトかな」と感じているかも知れないがまさにその通り。「欧州の二輪排出ガス規制」のことで、ユーロ5は2020年の1月1日からスタートした規格だ。そう聞くと、国産バイクには関係ないと思われるかもしれないが、それがじつは大きく関係しているのだ。
日本にも独自の排出ガス規制が存在していて、たとえばバイクの車検証の備考欄に「平成○○年排出ガス規制適合」などと記載されている。この年度による段階は、ユーロ5の前の「ユーロ4」が2016年から始まっていて、これは日本の「平成28年排出ガス規制」とほぼ同じ規制内容だった。
そして日本の「令和2年排出ガス規制」が、ほぼユーロ5に準拠する。いわば国際基準調和(グローバルスタンダード)に合わせることになったわけだ。
規制の適用は(ユーロ5は)新型車は2020年の1月1日からだが、継続生産車は1年後から始まる。そして日本(国内販売モデル)はおおむね1年ズレて「令和2年排出ガス規制」は新型車が2020年末から、継続生産車は厳密には排気量などで施行時期が異なるが2022年11月から適用される。
欧州と日本での規制の名前や施行時期が少しずつ異なる(しかも西暦と元号が入り混じる)ので難解に感じるが、端的に言えば、外国車や欧州をメインに海外に輸出する日本車は、ユーロ5に適用しなければならないし、国内の日本車も令和2年排出ガス規制≒ユーロ5に適合していなければ2022年11月までしか生産できない、というコトになっているのだ。
ドゥカティのパニガーレV4Sは、2021年12月にユーロ5に適合した2022年モデルを発表。厳しい排出ガス規制に対応しながら、従来モデルより最高出力を1.5ps向上しているところが凄い!
規制に対応するのにコストがかかる。それを機にディスコンも……
この厳しさを増す排出ガス規制に対応するには、マフラーや排出ガスの浄化装置はもちろん、エンジンの制御プログラムの変更が必要になる。それで対応できれば良いが、ともすればエンジンを設計し直す必要もあり、そうなると開発コストや製造コストが上昇するため、継続生産を断念せざるを得ない車種も出てくる。近年、ロングセラーの人気車なのに生産終了するモデル等は、それにあたる場合が多い。
また、排出ガスの有害物質を規定値に収められたとしても、それにともなってパワーやトルクが減少したらユーザーとしては嬉しくない事実。とくにパフォーマンスがValueのスーパースポーツ系では商品価値が下がってしまうから、継続して生産・販売を続けるなら少なくともパワーやトルクを維持する必要がある。しかしこれには当然ながらかなりのコストがかかる。
さらにユーロ5では「OBDの高度化(stage2:排出ガスの閾値診断に基づく部品・システムの劣化検知、トルク低下検知)」、『OBD-2』と呼ばれる装備も義務化された。これは診断ソフトの入ったコンピュータを繋いで車両の状態を調べられるOBD-2カプラーを装備しなければならないのえお意味する。ちなみにユーロ4でもOBDの導入が規定されたが、診断できる内容や情報はOBD-2より少なく、接続するカプラーの形状もバイクメーカーによって異なっていたが、OBD-2は四輪車も含めて世界共通規格だ。これもバイクのECUの改良や配線やカプラーが必要になるため、これを理由に継続生産せずにモデル終了するケースも少なくない。
惜しまれながらも生産終了
ヤマハのSR400とセロー。2車ともロングセラーで手堅い人気を持つが、2021年に生産終了。メーカーが明言したわけではないが、令和2年排出ガス規制すなわちユーロ5への適合が、性能やコスト的にバランスできなかったためのディスコンせざるを得なかった
OBD-2はかなり役立つ!
排出ガス規制はパワーやトルクなどパフォーマンスや、ロングセラーモデルの存続にも大きく影響する。地球環境に関わるので大切なこととはいえ、ライダーにとってはデメリットばかり……と思いがちだが、じつはそうでもない。
電子化の進んだ現代バイクのトラブルは、ユーロ5で装備されたOBD-2によって、故障診断がぐっと容易になった。これは修理を行うディーラーなどの利便性にも直結、ユーザーには関係なく感じるかもしれないが、効率的に修理やメンテナンスが行われ、そのぶん修理待ちや入庫している時間が短縮されるというメリットに繋がっている。
それと今後は、OBD-2から得られる情報を使用したアフターパーツの増加も予想される(すでにOBD-2が一般化している四輪車では、様々なアフターパーツが販売されている)。じつはOBD-2に接続できるスキャンツールや、そこからブルートゥースやWi-Fiで車両のデータを送ってスマートフォンにメーターを表示させるような専用アプリも出回っている。外国車や最新バイクの上位機種に装備される「インフォティメントシステム」の様な楽しみ方ができるのだ。排出ガスとは直接的には関係ないが、ユーロ5適合車両ならではのメリットといえるだろう。
OBD-2のカプラー
OBDとはオンボードダイアグノーシスの略で、日本語だと「車載式故障診断装置」となり、OBD-2は世界標準規格で、排気ガスの浄化の状態や、そこに関連する機器にトラブルや劣化が無いかなどのデータを得るためのツールだ。他にも制御系や電気系の故障診断に使用する(外部のパソコン等に接続するカプラーがシート下などに装備される)など、様々な車両データを取り出せるため、スキャンツールや専用アプリ(いずれもすでに市販されている)を使えば、スマートフォンに速度や回転数、走行距離や燃費計など様々な情報を表示することができる(写真は四輪車だが、世界共通規格なのでバイクも同じ形状のカプラーが備わる)