ネオクラシックにフォーカスされつつあるいま、エンジンも高回転でピークパワーを稼ぐのではなく、2気筒や単気筒の低い回転域でドコドコ走るイメージのバイクが増えている。
この低い回転域が強みのエンジンというと、昔はロングストロークと相場が決まっていた。
ロングストローク、いまでもたまに耳にする呼び方だ。
では何をもってロングストロークと呼ぶのか。それはピストンの直径、つまりシリンダーの内径より、ピストンが上下動するストロークのほうが長い組み合わせをロングストロークというのだ。
同じ排気量でもボア×ストロークの比率でエンジン特性が変わる
エンジンはピストンが吸気/圧縮と爆発/排気の行程で上下動する。この上下動を回転に変換するクランクとの組み合わせが、路面を蹴る駆動力となって後輪へ伝わる。
このエンジンパワーを強めるには、爆発回数を増やす、つまり高回転化するのが最も手っ取り早い。
しかしあまりに高回転でピストンが往復しようとすれば、シリンダー壁面と擦り合う速度が高くなり焼き付きなどのリスクが増える。
そこで単気筒は2気筒に、さらに3気筒、4気筒とピストンとシリンダーをミニチュア化していけば、ピストンが上下するスピードも抑えられる。
これが高回転高出力のために多気筒化してきた日本車の歴史でもある。
だがスピードを追い求めず。路面を力強く蹴るトルクを優先するエンジン特性にもニーズがある。
そうなると回転エネルギーではなく、毎回の爆発でエンジンが逆回転しないよう、クランクのフライホイールマスが大きな仕様が功を奏する。
そしてボア×ストロークの組み合わせは、必然的にロングストロークが優位だ。
同じ単気筒でもオフロード転用エンジンはショートストローク!?
ロイヤルエンフィールドClassic350はボア72mm×ストローク85.8mm
ヤマハSR400は、87mm×67.2mmとショートストローク!
なるほど、だからトルクの強い単気筒エンジンは、低い回転域で毎回の爆発を鼓動として後輪へ伝えているのだな……そうイメージされたかも知れない。しかし実はこの低回転域に強いイメージのヤマハSR400は、ロングストロークではなく、ショートストローク。
それはSR400/500のエンジンが、XT500というオフロードモデル用に開発されたからだ。
オフロードモデルのエンジンは、スロットルを捻って後輪を半ば空転させながらトラクションで方向性を得ていく乗り方をする。
つまりゆっくりドコドコではなく、即座にバーッと蹴っ飛ばす瞬発力が勝負ドコロ。
それにはショートストローク・エンジンのほうが優位となる。
でもドコドコとSR400は低い回転域で強い鼓動を刻んでいたはず……確かに鼓動というか強めの振動は感じられていた。
これはフライホイールマスを安定するまで大きくできない特性からきていて、そのため意外に低回転域でエンストしやすい面もあった。
対してロングストロークの歴史が圧倒的に長いロイヤルエンフィールドのようなメーカーは、このフライホイールマスを積極的に利用して強大なトルクを得る。350ccと大きくない排気量でも、大きな排気量のバイク並みに低回転域のトルクがあって、発進も神経質に半クラッチ操作する必要を感じさせない。
この長い歴史に培われた単気筒ロングストロークの領域へ対抗したGB350をチェックしてみると、70mm×90.5mmとライバルよりロングストローク。
この日本車にはほとんど初めてのチャレンジが、伝統の領域へ食い込めるのか、今後が楽しみだ。