鼓動をパフォーマンスに換えた270°ツイン!
気がついたらビッグバイクの2気筒は、ほとんどが270°クランク。
いま国産メーカーでも主流となった2気筒は、こぞって270°位相クランクに設定する。
なぜこれほどまでに270°とするのか、その一番の理由はこの不等間隔爆発が加速で路面を蹴ったとき、そのグリップ力が高くライダーが感じる醍醐味が大きいからだ。
そもそものルーツはドゥカティ。1970年代に入ると、単気筒ひと筋で450ccまで拡大したスーパースポーツ路線を、いよいよ750cc以上へチャレンジしようとしたとき、ドゥカティは水平シングルへ同じクランクを利用して垂直にもうひとつ気筒を増やしたのだ。
いわゆるVツインなのだが、その挟み角が90°のためLツインと呼ばれるようになった。
これが独得な排気音を聴かせるのに関心が集まり、実際にコーナリングからの加速、つまりトラクションの効率が高いというのが徐々に立証されていったのだ。
パラツインでも270°はグリップする!
1978年、ドゥカティは旧来のベベル駆動OHCの900SSを改造したバイクで、英国はマン島T.T.レースでホンダのワークスマシンRCB1000をブチ抜いて優勝。
その次世代の750 F1でもデイトナ優勝など、非力なイメージとは裏腹にメジャーなレースで互角に闘うようになっていった。
そしてF750からスーパーバイクへと市販車ベースの頂点レースで、916がホンダV4やヤマハやカワサキにスズキなど日本メーカーの4気筒勢を凌駕したのだった。
コーナー立ち上がりの旋回加速で、トラクションのグリップで差がつく……そんなシーンが当たり前になってきていた。
さらに砂漠で覇を競うラリーで、ヤマハは砂上でのグリップを意識して並列(パラレル)ツインに、90°Vツインと同じ不等間隔爆発の、270°クランクを採用したのだ。
その延長線上に1996年、ロードスポーツTRX850で270°パラツインを搭載、他のメーカーもこの爆発間隔の開発へと舵を切る流れができつつあった。
パルシブな不等間隔が最もメジャーなエンジンに
最近はメインスタンドを装備したバイクが少なく、スタンドを立てて後輪を浮かせた状態を見ることが稀だ。
以前はその状態でアイドリングの回転でギヤを入れると、後輪が爆発を刻むたびにカクカクと脈動を刻みながら回転するのを目で確認できた。
実はコレ、低い回転域だけでなく高回転域でもこのパルスを刻む状態は消えないのだ。
もちろん回転が低いときほど、この450°と270°の爆発間隔が大中を繰り返しながら離れるため、グイグイと路面を蹴る感触も強まる。
このLツインならではの挟み角が90°によって生じる不等間隔爆発は、ライダーにも大排気量の楽しみ方としても定着。
スーパーバイクで4気筒と対等に渡り合えるドゥカティの人気も高まっていった。
そしてご存じヤマハだけでなく、ホンダも大型クラスを4気筒から2気筒へと新たなラインナップを組み、270°位相のクランクがいわば大型クラスでの定番にまで広まってきた。
パルシブで路面を蹴る感触や、トラクションで曲がっていくときの醍醐味感で、270°ツインはすっかり定着した。
国産メーカーより270°でも先行していた海外メーカーも、既に標準仕様として定番化している。
楽しめるビッグツインという、ポテンシャルの広さが功を奏したこのエンジン形式が、これからも勢いを失うことはなさそうだ。