RIDE HI × ヤングマシン
RIDE HIとヤングマシンがムルティストラーダV4Sの魅力を違う視点から探っていく、この企画。
今回は、なぜムルティストラーダにV4エンジンを搭載したのか探る。
「ムルティストラーダV4S」関連記事
2018年にドゥカティのスーパーバイクシリーズとしてパニガーレV4がデビュー。翌年にはV4Rが登場し、スーパーバイク世界選手権(SBK)もV4エンジンで参戦を開始。それまでLツインを育んできたドゥカティにとって、2018年は大きな時代の節目であった。
2020年にはV4エンジンを搭載したネイキッドであるストリートファイターV4が登場。
そして、2021年、ドゥカティはなんとデュアルパーパスのムルティストラーダにもV4エンジンを搭載。
そもそもこのV4エンジンは、MotoGP直系。レーシーでアグレッシブな特性を想像する方も多いだろう。
ディアベルにならともかく、なぜムルティストラーダに……そう思うのは当然。僕もそんな1人だった。ちょうど1年ほど前にムルティストラーダV4のスクープ写真が出回り、「ドゥカティはどこに向かおうとしているんだろう」と疑問に思った。しかし、その考えはストリートファイターに試乗して払拭された。
V4エンジンを搭載して速さを追求したのかと思いきや、しっかりと乗りやすさと快適性を重視した進化を果たしてきたムルティストラーダ V4シリーズ
電子制御で従順にも過激にもなるV4エンジン
V4エンジンは過激……確かにパニガーレ のエンジンはそうだった。でもその意識はストリートファイターV4のライディングモードをストリートにして走り出した瞬間に変わった。
スロットルレスポンスがとても穏やかで、サスペンションまでもが柔らかくなるため、想像していた以上に身体に馴染む。それでいてドゥカティ特有のエンジンの気持ちよさや、トラクションのよさはそのまま。スペックに恐れることなくバイクそのものの魅力を楽しめるのは意外だった。
「あ〜、なるほどぉ〜」
ドゥカティは上手いなぁと思うと同時に、すぐにムルティストラーダV4のスクープ写真が頭の中に浮かんできた。
バイクがどんな状況にあるのか、電子制御による情報はディスプレイから把握することができる。前後方向にレーダーシステムを装備するなど、新しいチャレンジも満載。バイクはここまできた! きっと手に入れた誰もがそう思うはずだ
ムルティストラーダに搭載されるV4エンジンは2気筒よりも軽くてコンパクト!
信じられないことにムルティストラーダに搭載されるV4エンジンはこれまでのLツインエンジンよりも軽くてコンパクトに仕上がっている。
重量で−1.2kg、高さ−95mm、前後長−85mm、幅+20mm、数値で見るとそのコンパクトさがとても分かりやすい。
このコンパクトさと引き換えにデスモドロミックというバルブ開閉機構を失ったが、エンジンがコンパクトなメリットは計り知れないほど大きい。
4気筒なのに2気筒よりもコンパクト。この事実はかなり意外だったが、こうして比較してみると一目瞭然。しかもその数値を見るとかなり小さいし、軽いことがわかる
小さなエンジンは車体設計の自由度を上げてくれる。特にムルティストラーダのようなデュアルパーパスは、エンジンを低い位置(最低地上高は確保)に搭載することで、不安のないハンドリングを実現。重心が高いと未舗装路などの不安定な場所でフラフラとしてしまい、バランスが取りにくいことが容易に想像できる。
またV4エンジンは2気筒よりも滑らかな特性を持つ。パニガーレ やストリートファイターのV4エンジンはハイスペックを追求してきたが、ムルティストラーダのエンジンは滑らかさを追求。低中回転域のスムーズさ、ライダーのキャリアを問わず乗りやすいことを徹底追求し、その目標を達成したという。
LツインからV4に……これはとても大きな決断だったに違いないが、ドゥカティは自らが求めるデュアルパーパスを次のステージに進めるためにV4エンジンをチョイスし、ユーザーの利点を最大化したのである。
最高出力は170ps/10,500rpm、最大トルクは12.7kgm/8,750rpm。パワーよりも扱いやすさやスムーズさを重視して新しいV4エンジン
ドゥカティがデスモドロミックを採用しないエンジンを採用するのはベベル時代以来のこと。部品点数が減らすことで、耐久性とメンテナンス性を飛躍的に向上させた
長距離を走り切れるメンテナンスサイクルの長さ
ムルティストラーダV4のエンジンは、通常の2倍以上の時間をかけて徹底的にテストされた。20日間ずっとエンジンベンチにかけたままにしたり、様々なテスト車でそれぞれ12万キロ以上を走破した。
そこで得たのはバルブクリアランスの点検&調整は6万km毎、オイル交換は1万5,000kmまたは2年(これまでは1年)というメンテナンス性の高さだ。
エンジンの中はエンジンオイルが劣化しない環境づくり(水の侵入やブリーザーの処理など)が徹底され、これがユーザーの維持費低減に繋がっている。
大陸横断……欧州の用途を考えるとこのメンテナンス性の高さも大きな進化なのである。
どこまでも走りたくなるドゥカティ。それがムルティストラーダ V4だ。エンジンのメンテナンスサイクルの長さは歴代ドゥカティの中でもNo.1。メンテナンスコストを旅の予算にあてて、とにかく走りまくりたい
高速道路巡航中はBMWのGSよりも静か?
もうひとつの注目したい進化は、エンジンのノイズ(不快な音)を低減していることだ。エンジンカバーには様々な工夫が施され、ノイズインシュレーターが各部に配置されている。
静粛性の追求は長距離走行時の疲労軽減に直結する。ライダーはもちろんパッセンジャーの走行後の疲労も大きく変わるだろう。本国ではBMWのGSよりも静かなのではないか……そんな話も出ているという。
様々なシーンでエンジンを生かすための電子制御
新しいムルティストラーダにはすべてのシーンで快適に走るための電子制御が満載だ。
モード切り替えはもちろん、電子制御式のスカイフックサスペンション、トラクションコントロール、ウィリーコントロール、ビークルホールドコントロール、コーナリングライトなどこれまでムルティストラーダが培ってきた機能を熟成。
さらには前後方向にレーダーシステムを装備し、高速道路では前者を追従して巡航できるシステムをバイクとしては世界で初めて搭載。交通状況を常に監視することで安全性を向上させている。
逞しさと快適性、速さと安全性を飛躍的に向上させるためにドゥカティはV4エンジンをムルティストラーダに採用してきた。近いうちにその進化を試乗して見極めたい。
フロントホイールは19インチ。未舗装路ではよりコントローラブルなハンドリングを約束。ホイールを大経化しているが、車体自体はコンパクトなつくりになっている
新設計された6.5インチのメーターパネルは、体格によってはもちろんスタンディング時にも見やすいように角度調整が可能。路面やライダーのコンディションに合わせて4つのライディングモードから選べる
モードや走行シーンによって連続的にサスペンションの減衰力を変化させるスカイフック・セミアクティブ ・サスペンションを採用。400通りの組み合わせからから任意でセッティングすることも可能だ
これまでは多くのムルティストラーダ が片持ちスイングアームを採用していたが、今回は両持ちのユニークなデザインのスイングアームを採用。大胆にセンター部分を肉抜きし、見るからに軽量そうだ
※すべてのカラーでキャストホイールモデルとスポークホイールモデルがあります。
New Ducati Multistrada V4 | Rule all Roads (JPN)
SPEC
- 総排気量
- 1,158cc
- ボア×ストローク
- 83×53.5mm
- 圧縮比
- 14対1
- 最高出力
- 170hp 125kW/10,500rpm
- 最大トルク
- 12.7kgm 125Nm/8,750rpm
- 変速機
- 6速
- フレーム
- アルミニウムモノコック
- 車両重量
- 240kg
- キャスター/トレール
- 24.5°/102.5mm
- サスペンション
- F=テレスコピックφ50mm倒立
R=スイングアーム+モノショック - ブレーキ
- F=φ320mmダブル R=φ265mm
- タイヤサイズ
- F=120/70ZR19 R=170/60ZR17
- 軸間距離
- 1,567mm
- シート高
- 810〜830mm
- 燃料タンク容量
- 22L
- 価格
- 288万円〜