いまどきレアなビッグシングルスポーツ
大径ピストンひとつでトルク&パワーを捻り出す。単気筒は最も原始的(?)なエンジン形式といえるかもしれない。もちろん現在も小排気量モデルやデュアルパーパス&オフロードモデルでも使われているが、新車が発売されている、大排気量……いわゆるビッグシングルのロードスポーツモデルは、現在ハスクバーナ・モーターサイクルズのヴィットピレン701と姉妹車両のスヴァルトピレン701しかない。
ビッグシングルは、2〜4気筒勢に比べてエンジンスペックで劣っているせいなのか、単に魅力的なモデルがなかっただけなのか……いまひとつ、脚光を浴びる存在になっていない。さらにロードスポーツともなれば、好きモノが選ぶレアバイク、としか捉えられていないのが現状といえる。
LC4エンジンは、排気量693cc、水冷単気筒、SOHC4バルブ。パワーは55kW(約75hp)を発揮する。バランサーを内蔵し、不快な振動を抑えている。スリッパ―機能持つAPTCクラッチを装備
かつてビッグシングルのブームがあった
古い話をすれば、日本では’80年代にビッグシングルロードスポーツが脚光を浴び、ブームになった時代があった。つい先日、43年の歴史に幕を閉じることがリリースされ、ファイナルエディションが発表されたヤマハSR400/500シリーズを筆頭に、より前衛的なフォルムが与えられたヤマハSRX400/600シリーズ、そしてトラディショナルなフォルムが与えられたホンダGB400/500シリーズがその主役だった。
このブームは、レーサーレプリカが過熱する一方で、気張らずに乗れる趣味性の高いバイクとして、アンチレプリカなユーザー層の支持を得た。
そして、ファッショナブルなイメージのブリティッシュ&イタリアンテイスト、あるいは走りを重視したハイパーシングルなど、様々な方向性に変化させることができるカスタム素材としての魅力が拍車をかけた。
また、国内では当時BOTT(バトル・オブ・ザ・ツイン)をはじめとするシングル(&ツイン)レースが盛んに行われており、コンストラクターが独創的なバイクをつくり出していた。そして、レースで開発されたチューニングパーツなどの存在も、このビッグシングルブームを後押ししたのは間違いないだろう。
こうした一時は隆盛を誇ったブームも’90年代を半ばには鳴りをひそめ、ビッグシングルロードスポーツは徐々に姿を消していった。
‘00年代以降のビッグシングルのロードスポーツモデルは、モタードから発展したネイキッドスタイルのものが多く、スポーツシングルを感じさせるロードスポーツはオーストリアのKTMのみであった。
YAMAHA SR400/500
1978年に登場し、改良されながら現在まで生産され続けてきたロングセラーモデルも2021年でファイナルを迎えた。デビュー当時からカスタム素材として人気を誇るなど、常にシングルブームを牽引してきた
YAMAHA SRX400/600
クラシック……ではなく、美しいフォルムで’85年に新世代シングルとして登場。外観だけでなく、優れたハンドリングが評価を高め、シングルレースでも人気を博した。いまだ根強いファンが多い1台だ
Honda GB400/500TT
’60年代に英国で活躍したロードレーサーのスタイルを取り入れたホンダのシングル。シンプルなデザインを採用しながらもアルミや鍛造ジュラルミン製パーツを多用するなど質感を重視。400ccモデルも併売
SUZUKI GOOSE350
シングルスーパースポーツとして’91年に登場。GSX-R750の技術が投入された油冷エンジンを採用するなど、国産シングルの中では最もスポーツ性をアピールしたモデルだった。翌’92年には250も登場した
カフェスタイルのビッグシングル
’17年のミラノショーで発表されたハスクバーナモーターサイクルズのヴィットピレン701は、ボリューム感が演出されたタンクとショートテールが組み合わされ、スリムな車体が強調されたデザイン。スポーツ性を感じさせる、カフェスタイルともいうべきスタイリッシュさが特徴だ。
ベースとなっているのは、KTMらしい骨太な外観が与えられた690デューク(ハスクバーナ・モーターサイクルズは2013年にKTM傘下に)だが、セパレートハンドルを採用した前傾姿勢のカフェスタイルに合わせて、車体周りをアジャスト。690デュークがベースとは思えないフォルムに仕上げられている。
ロングタンク&ショートテールの独自フォルムは、ベースとなったKTM 690デュークとはまったく別モノに仕上がる。ホイールベースなどはわずかに短い
SVARTPILEN 701
ヴィットピレン701の姉妹車両。オフロードテイスト漂うスタイリングやフロントホイールが18インチになっていることなどがヴィットピレン701との違い
KTM 690 DUKE
ヴィットピレンのベースとなった690デュークは、KTMらしいモタードルックのネイキッド。アップライトな姿勢で過激にも走れるビッグシングルだった
カウル付き250ccスポーツモデルと同等の軽さに75hp!
ヴィットピレン701の車両重量は158kg(燃料を除く)であり、この中間排気量クラスのバイクとしては超軽量に仕上がっているが、これはカウル付き250ccスポーツモデルと同等の軽さである。
この軽い車体に、55kW(約75hp)ものパワーを発揮するエンジンが組み合わされている……知れば、ニヤッとするベテランライダーも多いことだろう。
軽く、スリムな車体に搭載されているのは、KTMが長年熟成させてきた排気量693ccのLC4という信頼のユニット。105mmものボア径と90mmのストロークが与えられたショートストローク型であり、バランサーが搭載されているため、高回転まで回しても不快な振動は抑えられている。
このエンジンはスロットルの動きに忠実に反応し、低回転域から高回転域まで一気に回るパンチのある特性を持つ。トルクの山がつかみやすく、シングルらしい路面を蹴るような加速感も美点のひとつ。
こうしたエンジンと超軽量・スリムな車体の組み合わせによって、ヴィットピレン701はビッグシングルらしいヒラヒラと軽快な走りを楽しむことができる。車体がしっかりしているため、軽快な動きではあっても余計な不安を感じなくてすむ。
メーターは液晶ディスプレイ式。中央に各種情報が表示され、周囲にワーニングランプが配置されたシンプルなもの。ハンドルはセパレートタイプを採用する
イージーさはなくとも操る喜びは大きい!
ビッグシングルといえば、エンジンの使えるレンジが狭く、シフトアップ&ダウンを頻繁に行う必要があるなど、マルチエンジン勢に比べてイージーさはないし、スリムなエンジンだけに4気筒のような安定性を期待することもできない……。
しかし、上手く操れたときの満足感はけして引けを取るものではなく、むしろハマる楽しさがある。
いまだビッグシングルのロードスポーツは少数派。だからこそ、他のバイクとは違うヴィットピレン701をさっそうと乗っていたら、とても格好いい。 ヴィットピレン701だけでしか味わえない乗り味を、ぜひ1度は体験してほしい!
ロングタイプのタンクと同様に、ヴィットピレン独自のデザインが採用されたテール周り。シートやテールライトを支えているのはアルミ製のサブフレームだ
標準装備されるクイックシフターは、アップ&ダウンの両方で機能する優れもの。スムーズなシフト操作が可能だ。トラクションコントロールも標準で装備
ホイールは’20年モデルからそれまでのキャストからスポークタイプへと変更された。フロントフォークはリヤ同様にWP製。フロントブレーキはシングル
SPEC
- 圧縮比
- 12.7対1
- 最高出力
- 55kW/8,500rpm
- 最大トルク
- 72Nm/6,750rpm
- 変速機
- 6速リターン
- ブレーキ
- F=φ320mmシングル R=φ240mm
- タイヤサイズ
- F=120/70ZR17 R=160/60ZR17
- 軸間距離
- 1,434mm
- シート高
- 830mm
- 燃料タンク容量
- 11.2L
- 価格
- 125万8,000円