カッコ悪いと心配ならいっそ見せてしまえ!
Z1から名車の続出で挑戦が後手に回ったカワサキ
国産4メーカーで最後発だったカワサキを、世界でトップブランドへ押し上げた1972年のZ1。その後もGPz750FやGPz550で、ハンドリングの良さで世界トップクラスの評価を得るなど、じゃじゃ馬で名を馳せたカワサキのイメージが塗り替えられるほど、空冷DOHC4気筒の傑作ブランドが確立していた。
しかしこの評判が高まるほどに、改良を加え完成度を高めるカワサキは、ライバルたちが手を付けはじめた水冷化など、次の世代の構築に後れをとることにもなっていた。
フラッグシップの新顔として空冷4気筒のGPz1100がデビューした1983年、ホンダは前年に水冷でしかもV型4気筒のVF750をデビューさせていた。
1981年のKZ1000J、続く1982年にZ1000Rとローソンレプリカで、パフォーマンスのカワサキのイメージは盛り上げていたものの、さすがに色褪せてくる危機感は察知していたのだ。
すべてを刷新する何も引き継がないエンジンを目指す
水面下で進んでいた次世代エンジン開発には空冷6気筒も存在したというが、あまりにスムーズでアグレッシブ感に欠けると候補に残さなかったのはさすがカワサキ。
またGPz1100で大きく重くなり、スーパースポーツらしさを失っていく宿命を辿りながら痛感したのが、従来を引き継がないことだった。
超ハイパーで超コンパクト、小さくすれば必然的に高熱を覚悟しなければならず、迷うことなく選んだ水冷化は、モーターサイクル用エンジンでは採用されなかったシリンダースリーブが直接冷却液に触れるウエットライナーを採用。
さらに4気筒のクランクを支える軸受けを均一にコンパクト化するには、DOHCを駆動するカムチェーンを4気筒の中央に配置した従来の常識を棄て、クランク左端に設定することで4気筒すべての気筒間隔が均一で最小とすることができる。
出力を変速機へ伝える1次駆動もお得意のクランクウエブにギヤを刻み、ジェネレーターもシリンダー後方の背面へ搭載して、1クラス以上も小さい排気量の4気筒より幅の狭い超のつくコンパクトさを得ることになったのだ。
これで各気筒への吸排気のストレート化を完全平行なレイアウトで達成、908ccで115psと群を抜くハイパーエンジンが誕生した。
この超コンパクトな超ハイパーエンジンを搭載するフレームも、ハンドリングなど運動性を軽快で鋭いものとするため、コンパクト化を最優先とした結果、大型車としては珍しいエンジン前方のダウンチューブと呼ばれる2本のパイプを省いた、エンジンを剛性メンバーとするチャレンジも加わった。
最速240km/hを狙ったマシンだけに、高速安定性で必須の低重心化をこのダイヤモンド型フレーム形式で達成しようとしたチャレンジがいかに正解だったかは、発表スペックを上回るテスト結果と共に矢のように直進する評価でデビュー後に立証されたのだ。
前輪も最新装備として注目されていた、小径ロープロファイルの16インチでアピールを強めるなど、ルックスも新世代らしさに溢れてきた。
4気筒のすべての間隔が均等で吸排気が平行してストレート化された水冷DOHC16バルブNewエンジン。シリンダーもウエットライナーでコンパクト化に貢献する
エンジンをフレームの剛性メンバーとして利用するダイヤモンド型フレーム。シートレールは軽量化のためにアルミ製
初のフルカウル仕様は、両サイドをえぐり抜かれてしまう!
そしてすべてに新しいGPZ900Rは、カワサキとしては初のフルカウル仕様となるはずだった……それまでGPZシリーズはヘッドライト周りから燃料タンクのラインと繋がるハーフカウルでまとめられていた。
エンジンの美しさを見せるのと、運動性などハンドリングを優先してのことだったが、最速マシンを標榜するGPZ900Rはライバルメーカーのハイパーマシンと肩を並べるエンジンも覆うフルカウル……
これが覆されるのがカワサキだ。徐々にまとまりつつある外観に、空力特性を向上させるほど個性も失われていくのを感じていたからだ。
このまま仕上がったらカワサキでなくなる。どこか他にない突出した凄みはないのか?という視点で探ると出てきたのが、新機軸として、モーターサイクル用エンジンではあまり採用されなかった、サイドカムチェーン。
それまでカムチェーントンネルが2番シリンダーと3番シリンダー間でセンターにあった4気筒の、左右どちらから見ても同じだったルックスが、右はDOHCらしいヘッドカバーと水冷のコンパクトなシリンダーに対し、左側はノッペリした大きなカムチェーントンネルのカバーだけ。
カウルがあるから良いものの、左右でエンジンのルックスが違うのは、カッコ悪いなぁという危惧があったそうだ。
「だったら、そこを見せてアピールしてしまおう!」
アメリカのレースで不吉の象徴とされていた、ライムグリーンをチームカラーとして纏い、人気を得たカワサキ魂がまたもや炸裂したのだ。
というワケで、本来はすべて覆われるフルカウルは、サイドカムチェーンのトンネルカバーの形状のまま切り抜かれた。
果たして、GPZ900Rは見たことのないファクターの集合体としてデビュー、その最速パフォーマンスはもとより、カワサキの中でも他にない個性の強さがファンに愛され、フラッグシップとしてはZZR1100やZX-9Rなど新たな系統が加わっていきながら、実に20年もの間、A1~A16タイプまで延々と生産が続けられたのだった。
いかにもカワサキならではの、Ninja900Rにまつわる逸話だろう。
DOHC 16-VALVEと刻まれたカムチェーントンネルカバー形状のまま、前側が切り抜かれたカウル。本来はエンジン全体を覆うフルカウルとなるはずだった
カワサキといえばやはりライムグリーンがラインナップに必要と’85モデルに加わる
1990年型のA7から前輪は17インチ化されている
2003年の最終生産型A16