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このバイクに注目
MOTO GUZZI
V7 SPECIAL
2021model

【MOTO GUZZI V7 SPECIAL】個性派モトグッツィの、空冷でもEURO5に適合した850ccNewV7の半端ない趣味性

Photos:
柴田 直行

ほとんど知られていない縦置きエンジンの魅惑的な乗り味
逞しさを増した空冷850Vツインが誘うグッツィだけの心地よさ

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100周年を迎えたモトグッツィは、先のミラノショーでまったく新しいV100 マンデッロを発表するなど、伝統の重みに最新テクノロジーでも勢いをみせる、イタリアの個性派メーカーだ。
この縦置きVツイン、100周年のすでに半分以上を遡る1965年のイタリア官公庁向け警護用704cc大型オートバイに端を発したエンジンで、元を辿るとなんと軍用三輪車のエンジン開発から発展するという、そもそも風変わりな運命の持ち主でもある。
当時はハーレー以外に威風堂々とした超大型オートバイが少なかった時代で、その大きさからアメリカで白バイに採用され、それがアメリカでのモトグッツィファンを根づかせるきっかけとなり、現在まで続くメーカーとしての礎を築くことになったのだ。
その巨大なV7はさらに750ccへと拡大する一方で、大柄なアメリカンスポーツとは対極のスリムなヨーロピアンスポーツも派生し、これがルマン850などヨーロッパのみならず日本でも伊達好みな大人のライダーの目にとまり、エンスージアスト向けバイクの象徴となっていった。

この今に伝わる粋なバイク、いうまもなくどこでも目につくほど多くはない。なぜマイノリティなのかという理由のひとつに、縦置きVツインの特殊なエンジン型式があるのは間違いない。
通常のバイクは、燃料タンクの下にあるエンジンが前後の車輪と同じ回転方向で作動しており、ライダーに対し横から串刺しの軸をギヤにチェーンで結んでいる。
対して縦置きは、エンジンの回転方向が90°異なるバイクの進行方向と同軸で回り、後輪へもシャフト駆動で伝達して、後輪のハブで90°方向転換する方式だ。

なぜこのような方式が誕生したのか、そのルーツでもあるBMWの水平対向ボクサーの縦置きについて『RIDE HI』No.8で詳しく解説しているが、飛行機エンジンメーカーだったBMWは、小型飛行機の単発で前方の視界が良いのは水平対向エンジンだったその技術で、オートバイを開発生産したからだ。
この昔からの自動車と同じ回転方向に搭載する方式の一番のメリットは、飛行機と同じ進行方向へのジャイロ効果による安定性の高さ。これは空の上だけでなく、地上を走っても路面の不整に強く、同時にリーンなどロール方向には軽快という特性もオートバイ向きといえる。

モトグッツィもオートバイに跨がるような型式の軍用3輪車で、この縦置きVツインを開発していたため、警護用の超大型オートバイのオーダーには低速から安定する方式がニーズにも合うため、この縦置きVツインを進化させたというワケだ。

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重さを感じさせない従順さとずっと続く安定感が何よりも魅力

ではいったいどんな感じなのか。まず驚かれるのが、エンジンを始動してスロットルをひと捻り空吹かしをすると、軽快な乾いたサウンドと共に車体がグラッと右に傾くことだろう。
慣れないと走り出してからどうなるのか不安にかられる人もいるかも知れない。
しかし走行中は縦置きクランクの回転によるジャイロ効果の安定性が強まり、不安を感じるような挙動は皆無。
ただ左コーナーではスッとリーンするのに対し、右コーナ―だとちょっと緩慢になる違いが出る。別に重いとかそういったネガティブではなく、意識して重心移動で左より積極的になれば良い程度の差だ。

肝心の安定感だが、それこそ半クラッチが繋がるか否かの速度域から、バランスをとることなくバイクに身を任せた走りが可能になる。
しかも大型モデルにありがちな、タウンスピードの右左折のように、速度が下がると不安定な領域が出現し、ちょっとでも速度がでると慣性力で重く感じさせることもない。速度が上がろうが下がろうが、ずっと同じ感じで操れる不思議な感覚のバイクで、たまにしか乗れずにそのたびに慣れるまで時間がかかるとお悩みのライダーには絶好の相棒となる可能性が高い。

そして停車する際も、それこそ完全に停車してから足をつくタイミングで大丈夫という安心感に包まれる。ただ小さなターンで曲がりにくい錯覚に陥りやすいので、ハンドルが自然に切れる位置に両手と上半身を置いておくコツが必要ではある。

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驚くほどの低回転域の逞しさと、回転が上昇してもクルージングが楽しい万能さがアップ

そして何より、縦置き空冷Vツインのなんと魅力的なパワーフィーリングなことか。
厳しさを増したEURO5規制は、特に空冷とくれば悲観的な結果を想像しがちだが、モトグッツィのV7 SPECIALは排気量も850ccへスケールアップ、パワーダウンどころか、これまでに経験したことのない湧き上がるような逞しいトルクと、バイブレーションのない中速以上のスムーズな回転域を得るという、素晴らしい設定へと進化を遂げていたのだ。

感銘したのが2,000~3,000rpmという低回転域。さすがにスロットルを捻った瞬間は、いかにも空冷らしく鋭いレスポンスではなく、ジンワリとやや遅れ気味に応えてくるのだが、その反応がはじまった直後からグーンと身体が強めの加速Gを感じる力強さが楽しめる。
いわゆるヨーロピアンツインに共通したマナーの、クランクシャフトのカウンターウエイト、はずみをつける錘(オモリ)の重さが、加速をはじめると追いかけるように力強さをプラスしてくる、そんな感じの逞しさだ。
だからといって、スロットルを戻してから回転がドロップするまで時間がかかる、いわゆる鈍感なフィーリングはまったくない。
おまけに、どちらかというと高速道路で5,000rpm以上回していると、90°Vツインでもさすがに振動でやや我慢が必要だったのが、850ccになってパワーも盛り上がるしバイブレーションも滑らかと、明らかに振動特性が向上している。ツーリングで遠出する気にさせるプラスαとして好感が持てた。

このマス(回転の慣性質量)を利用というか応用したノウハウは、大型2気筒のスポーツバイク経験の少ない、日本メーカーでは継承できていない部分で、ヨーロピアンのエンジンフィーリングの強みといえる部分だ。
クランクマスだけでなく、クラッチやジェネレーター系の回転質量、さらにはコンロッドの上下動より回転方向のマスも、ツインは力量感に影響するため、形状から日本車とは異なるケースも多い。
スペックとしてのパワーやトルクより、スロットルの開け閉めで醍醐味が左右されるほうへ軸足をおいたヨーロピアンのエンジンのつくり方が、このところどんどん進化して差が開いているのを感じずにはいられない。

しかも空冷という、若干のタイムラグが人間の感性に馴染みやすい美点として継承されているところが素晴らしい。
いまパフォーマンスはより感覚に訴える側が重視されてきている。確かにスペックでは性能的に際立ってはいなくても、乗ると刺激が強かったり醍醐味を感じる面白さが大きかったりするほうが、満足度の高さを決めるようになってきている。

トラディショナルなルックスに、ちょっと輝きを持たせたお洒落なV7 SPECIALが漂わせる新しさに目が覚める思いだ。こればかりは乗ってから眺めるからで、機会があればぜひ試乗されるようオススメしておきたい。

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もとはイタリアの官公庁から警護用大型オートバイを受注して、軍用で開発していた3輪車の縦置きVツインを転用したのがはじまりのV7。モトグッツィは当初シングルの名門で戦後もクラシカルな単気筒を生産、世界GPでは最高峰500ccクラスにホンダが参入する前に、V型8気筒の超高回転高出力マシンを投入していたギャップの大きなメーカーだった。画像は1965年のオリジナルから一般用に進化した1970年のV7 SPECIAL。この後にスリムでスポーティなV7 スポルトが加わり、ルマン850など歴代の名車が続出した

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正面から見た90°Vツイン。丸いカバーの奥にジェネレーターとクランクシャフトが収まり、飛行機のプロペラを回すエンジンと同じくバイクの進行方向で同軸で回転、これが摩訶不思議な常に安定感を失わないモトグッツィならではの特性を醸し出している(ただし画像は750ccのV7)

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SPEC

Specifications
MOTO GUZZI V7 Special
エンジン
空冷4ストロークOHV2バルブV型2気筒
総排気量
853.4cc
ボア×ストローク
84×77mm
最高出力
48kW(65hp)/6,800rpm
最大トルク
73Nm/5,000rpm
変速機
6速
フレーム
ダブルクレードル
車両重量
223kg
サスペンション
F=テレスコピックφ40mm正立
R=シャフトドライブ+ツインショック
ブレーキ
F=φ320mmシングル R=φ260mm
タイヤサイズ
F=100/90-18 R=150/70-17
全長/全高
2,165/1,100mm
軸間距離
1,450mm
シート高
780mm
燃料タンク容量
21L
価格
127万6,000円
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