レースはブレーキオイル(フルード)が漏れる?
MotoGPマシンやスーパーバイクなどレーシングマシンのコックピットを覗くと、ブレーキのマスターシリンダー横にある、いわゆるブレーキオイルカップに、何やらタオル地が巻かれているのに気づく。
無地だったりDUCATIやHRCにヤマハ音叉のロゴと様々だが、いったい何のためなのか、市販されているバイクに無いモノなので想像しにくいかも知れない。
これ実は走行中にブレーキオイル(フルード)が飛散して、ヘルメットのシールドやカウルのスクリーンを溶かさないよう、滲み出たのを染み込ませておくためなのだ。 エッ、頂点のMotoGPマシンなのに、漏れるってどういうこと?、そう思えて当然だろう。
この一般のバイクにもある、マスターシリンダー横のブレーキオイルのカップ。
上のキャップがネジ込み式なので、緩んだりすると脇から漏れてくるかもだが、レースのようにシビアな整備をプロが手がけていても、そんなことが起きるなんて……。
ブレーキフルードの正体とシビアな使用条件
ほとんどのスポーツバイクはディスクブレーキ。そしてこれを作動させるのが油圧で、ブレーキレバーの先端がマスターシリンダーを押して、中に封印されているブレーキオイルの圧力がキャリパーのブレーキパッドを強く挟む、という仕組みはご存じのはず。
この手の操作を油圧で超強力な圧力へ変換する倍力装置、使用するフルード(液体)には高性能なマシン用になるほどシビアな特性が求められるのだ。
たとえばディスクの温度。カーボンブレーキは1,000℃にも達する。
これはパッドからキャリパー、そしてこれらを押し付けているブレーキフルードにも伝わる。
スチール製のディスクローターでも、レースのように300km/h→100km/h以下までフル制動とかになると300°以上で500℃近いことすらある。
そうなるとブレーキフルードで一番リスキーなのが、高温で沸騰することだ。
沸騰、すなわち泡が沸くと、その泡の気体はチカラをダイレクトに伝えなくなる。
この高温で沸点が高い特性とするのが、レース用の特殊なフルードで、もちろんオイルではない。
ブレーキオイルと一般には呼ぶが、市販車用も沸点を高めたグリコール系(ポリエチレングリコールモノエーテルなど)で、そもそもオイルではない。
付着したらすぐ水洗い、サーキット走行してるなら交換も!
そしてこのブレーキフルードは、僅かな隙間でも滲みていく浸透性が極端に高く、それは沸点が高いグレードほどキツイのだ。
さらに樹脂への攻撃性、わかりやすくいえば表面などすぐ溶かしてしまう強烈さで、塗装もちょっと表面についただけで剥がれてしまうコトになる。
つまり市販車で使われるブレーキの温度に対応したブレーキフルードは、そう容易くカップの蓋から滲みでることはないが、レーシングマシン用となるとどんなに強く締めてあってもカップを濡らしてしまうほどの浸透性なのだ。
ということで、この万一にも滲んで漏れたとしても、ライダーやマシンに危害が及ばないよう、タオル地のバンド(当初はテニスなどのスポーツ選手のリストバンドがサイズ的にちょうど良いので流用されていた)を巻くようになったというわけだ。
このグリコール系ブレーキフルードはそもそも吸湿性が高く、大気中の水分など徐々に取り込んでしまう。
水分が混じれば沸点も下がるし、そうなればなるほどダイレクトな操作感も失われる。
レースではしょっちゅう交換してタッチが変わらないようメンテする。
つまり、サーキット走行を楽しむライダーは、年に一度、シーズン毎にフルードの交換するのがお奨め。
高価な高性能ブレーキに、相応なレベルのブレーキフルードを使っていれば、頻繁に交換してこそのデリケートで扱いやすいブレーキということになる。
ところでこのマスターシリンダーカップバンド、捜せばDUCATIロゴのモノなど出回っているのと、何とHRCでは「HRCロゴ」のRC213Vワークス仕様を販売している。
愛車のドレスアップにはかなり効果的に違いない!
▶▶▶https://www.honda.co.jp/HRC/products/worksparts/cylindercupboard/